妙な気配

251 :1/2:2008/07/28(月) 01:37:50 ID:duppjY6F0
ツレの家で男三人集まって飲んでいた時の話。
季節も丁度、今頃くらいだったので「それじゃあ怖い話でも酒の肴にするべや」と言った感じで
何故か怪談コーナーへと突入した事があった。
とは言え、所詮は全員、素人。しかも霊体験皆無で、程よくアルコールも回っているとくれば
そうそう身の毛もよだつ話なんて期待出来ない。
出てくる話も、どこかしこで聞いた事のある内容で、苦笑半分、ツッコミ半分といった内容。
そろそろ、与太話にも飽きが来ていた頃、ツレのひとりがぽつりとこんな話をし始めた。
『前によ。ひとりで部屋にいた時なんだけどさ・・・何か、妙な気配がしてさ』
若干、ろれつの怪しくなってきた口調で、そいつは言う。
「なんだよ、妙な気配って?」
と、これは一緒に飲んでいたツレBの合の手。
『いや、部屋に自分以外の誰かが居るって言うかさ・・・勿論、そん時は俺ひとりだったぜ?』
ベタベタだな、そりゃ。と、俺は笑う。
『良いから聞けよ・・・とにかく、すげー変な感じでさ? なんて言うか視線?
 見られてるって感じなんだよな、それがさ?』
「鏡とかってオチじゃねーの?」
『いや、俺ン所、鏡ねーし? それに、その視線ってのがさ、何か背後からするんだよな、背後。
 その時俺、パソコン弄ってたから、椅子に座っててさ? そうなると、後って丁度窓なんだよな』
何か、アレだ。ベランダから猫でも覗いてたんじゃないのかよ。と、問う俺にツレは首を横に振る。
『いや、その時、カーテン引いてたからさ。見えるわけないんだよな、中も外も・・・ってゆーか、
 布越しだぜ? 視線感じるってどんだけ目力凄いんだよ』
 苦笑しながらツレは続ける。
『で、気のせいかとも思ったんだけどさ・・・やっぱ気になるだろ?
 だから一応、ベランダの方確認しようと思ったんだよな。泥棒とかだったらヤだし』
俺もツレBも無言。ツレはそんな俺らに肩を竦めながら話を続ける。
『カーテンの前に立ってさ、色々思うわけよ。このカーテン開けたら
 窓全体にすげー形相した女が張り付いてたらどうしよう・・・とかさ? 何か妙に緊張するのよ
 でも、一度気になったもんは、仕方ないだろ? だから、意を決してカーテンをガっと開けたわけよ
 そしたら・・・』

俺もツレBも息を飲む。
『・・・そうしたら、やっぱそこには誰も居なくてよ』
「・・・何だよそれ。結局、気のせいかよ」
呆れるように息を吐くツレB。俺も、意味も無く緊張してしまった事がバカらしくなってきた。
『でな? 人間、緊張が解れると、ほっと息つくだろ?
 肩の力抜くと、何となく視線とか下に落ちるだろ?』
「いやまあ、そういうもんかも知れんが・・・」
『そしたらな・・・居たんだよ』
何が? と、問う俺にツレはあくまでもフランクに答える。
『女。カーテンの裾、ぎゅっと両手で握ってさ。床と、カーテンの裾の間から顔半分くらい
 にょきっと出してさ・・・じーっとこっち見てんの。無表情。爬虫類だか虫だかみたいな感情の無い目でさ
 俺、思わず口に出して言っちゃったよ【うわ、こっちだったか・・・】って』
俺とツレB。無言。
『それから結局、気でも失ったのか知らんけどさ。起きたら朝でさ・・・
 アレ、やっぱそういうモンだったのかねえ・・・』
最後にそれだけを呟くように言うと、ツレはその場でごろんと横になり、やがて酔いも手伝ってか
すやすやと寝息を立て始めてしまった。
残された俺とツレBは、酔いどころが血の気すら引いてしまい、お互い顔を見合わせる。
「・・・どうするよ?」
ツレBが神妙そうな顔で聞いてくる。
いや、どうするって言われてもアレだろ、作り話だろ?
「だろうけど・・・でも、なあ?」
俺とツレBは薄情にも先に眠りやがった、この部屋の主の顔を眺めながら
取り合えず残りの酒を煽ってとっとと寝る事にした。

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