お願いします

22 :本当にあった怖い名無し:2008/04/29(火) 23:00:44 ID:KG9kYTy10

寺のバイトで思い出した。投稿ご容赦。

実は、バイトとは言え、自分は坊主の真似事もさせられていた。無論、本山にバレれば問題だ。
坊主の真似事とは、檀家の家へ月参りに行かせられて、お布施を貰って来る事。
当然、屁の様なお経を唱えなければならない。
ある檀家の家に行った時の事。そこは木造の古い工場兼住宅だった。
その日が命日なのは、癌で亡くなって、自分も納骨に立ち会った婆さんだった。
婆さんには娘がいて、嫁いだのだが亭主によるDVで実家に戻っていた。
工場の立て付けの悪そうな玄関で声を掛けると、その娘が迎えに出て来た。
自分は記憶に無いのだが、彼女は納骨時にいた自分を記憶していた。
娘は昔のフィギャースケートの八木沼純子に似た東北系の色の白い人だった。
頬には薄らと痣があったが。
休業日の無人の工場を通り、ギシギシ音がする階段を登り、住居のある二階へ通される。
自分は早速、仏壇の前に座り経を上げる。部屋には彼女と私だけだった。
その時、
「この娘(こ)をお願いします」
と頭の中で声が聞こえる。思わず仏壇に置かれた遺影の婆さんを見る。
「お願いします」
背筋に冷たい物が少し走った。
読経を終え、娘がお茶を出し、自分が仏壇を護る事になった経緯を説明する。
しかし彼女の態度が妙だ。
顔を赤らめ、伏目がちに話す。
たまに甘えたような声で話す。
いくら女音痴の自分でも彼女が好意を持っている事くらいは分る。
次の檀家も有るので、お茶を飲むと挨拶し立ち上がり、再び仏壇に合掌する。
また、「お願いします」と聞こえる。
玄関で挨拶し、車に乗り込む。
彼女は暫く自分の車が通りに出るまで玄関で見送ってくれた。

バイトを辞め、それ以来、彼女には会ってはいない。
しかし、時たま彼女を思い出すと、母親である婆さんの顔も思い出す。
そして「お願いします」と声が聞こえた気がする。
今は段々記憶は薄れて来たが・・・

前の話へ

次の話へ