変なオジちゃん

342 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/05/27 01:25 ID:aoZTYLR+
知り合いの話。 

彼女は幼い娘さんを連れて、山菜採りによく出かけているのだという。 
その日も彼女は、二人で近場の山に入っていた。 

なかなかの収穫を上げて、下山している途中でのこと。 
いきなり娘が足を止めた。前方、麓の方をじっと凝視している。 
「どうしたの?」と聞くと、「あの小父ちゃん、変!」だと言う。 
山道の前方を見やると、確かに小さな人影がこちらに向かって来ていた。 
上下とも黒い服を着ていて、白い軍手がまるでそこだけ浮いて見える。 
見るところ、蜂除け用の網がついた麦藁帽子を被っているらしい。 
背中には大きな竹篭を背負っているようだ。
しばしば、そこいら辺りで見かける農夫の姿と大差がなかった。 
「何が変なの。失礼なこと言っちゃダメ」 
彼女がそう諭すと、娘は強情な顔をして首を横に振り、奇妙なことを言う。 
「だってあの小父ちゃん、さっきまで頭が無かったんだよ。 
 私たちを見て、慌てて背中から頭を出して、身体に載せてたんだもん」 
さては、篭から麦藁帽子を出した動作を、そのように見たのだな。 
そう考えた彼女は、苦笑して娘の頭を撫でた。
「とにかく、失礼なこと言っちゃダメですよ」と釘を刺す。 

しばらくして、その人影とすれ違った。 
母子は快活に挨拶したが、相手は軽く会釈しただけだった。 
目を合わせたくないかのように、俯いたまま無口で横を抜けていく。 
えらく無愛想な人だなと思い、彼女は相手の顔をじろりと見た。 
次の瞬間、ひどい違和感を感じる。何だ? 
すぐにその理由に気がつき、全身が凍りついた。 
網の奥、麦藁帽子の下の顔。 
そこにあったのは、マネキンの頭部だった。 

足を止めるのも恐ろしく、娘の手を引いたまま下り坂を歩き続ける。 
背後の足音が小さくなっていくのが、無性にありがたかった。 

麓についてやっと振り返ると、すでにさっきの男は影も形も見えない。 
腰が抜けてへたり込むと、彼女に向かって娘が言う。 
「ほらね。言ったとおりだったでしょ!」 
娘は鼻を膨らませ、誇らしげに胸をそらしている。 
どうだと言わんばかりのその姿に、彼女の恐怖心も霧散してしまい、思わず苦笑してしまったのだそうだ。 

以来彼女は、娘と二人きりで山に入らないように注意しているという。

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