ついてきてるよ

16 :1/2:2007/12/23(日) 04:35:24 ID:BHKFU+S60
焼身自殺で思い出した。

通っていた中学校と言うのが所謂、河の土手沿いに建っていた。
河川敷にはサイクリングロードなんかもあって、そこは川向こうから来る
生徒の通学路にもなってるんだが、ある日そのサイクリングロードで
焼け焦げた死体が見つかった事があった。自殺だったらしい。

しかも死体が見つかったのは朝の時間帯。川向こうから来る何人もの生徒が
それを目撃したらしい、中には死体を直接見たやヤツもいて、
曰く『真っ黒こげの丸い塊みたいなものが』曰く『辺りに焦げ臭い臭いが』等など
真偽の程はさて置き、学校中どこに行ってもその話題で持ちきりだった。
我が教室もそのご多聞に漏れず、川のこちら側に家のある俺は興奮しながらも
その話に耳を傾けていた。室内はいつも以上にざわめいていて
最早、取りとめもない状態だった。ところが――

「ついてきてるよ」
そんな一言が聞こえた。騒音と殆ど大差ないざわめきの中で、やたら小さなその声が
妙にはっきりと聞こえた。
まあ取りとめも無い会話の一部を偶然に拾ったんだろう――俺はそう思って気にしなかったが
ふと気付けば周りが酷く静かな事に気付いた。皆、固まったように停止している。
やがて男子生徒のひとりが、不意に声を張り上げた。
「気持ち悪いこと言ってんじゃねーよ、女子!」
そいつはそんな風に叫ぶと女子のグループの方をキッと睨み付ける。
「違うよ! あたしらそんな事言ってないって! 男子の方じゃないの!?」
女子のひとりが言い返す。

そうなのだ。何とクラスの全員があの「ついてきてるよ」と言う呟きを聞いていたのだ。
しかもクラス内の誰もそんな言葉は言っていないと言う。教室はやがてパニックに陥り、
泣き出すヤツが続出。騒ぎを聞きつけて隣のクラスの奴等もやって来て騒然となったが
担任が素早く登場し、そんな騒ぎを力ずくで収拾した。
担任が言うには「誰かの声を聞き間違えただけだ!」との事。
確かにそれが一番理屈に合っている。

だが本当にそうだったのだろうか。
あの時皆が聞いた声は確かに女性のそれだった。
だけど決して子供のそれではなかったように思える。
そして、あの声は聞き間違いにしては余りにもはっきりと皆の耳に聞こえていた。
教室の端から端まで全員に。あんなに小さな呟き声にも関わらずだ。

後日、件の焼身自殺の記事が新聞に載っていた。
自殺者は市内に住む二十七歳の女性。異性関係のトラブルから自ら命を絶った、と
その小さな新聞記事には極簡素に書かれていた。

前の話へ

次の話へ