もう使わないんじゃないかな

213 :本当にあった怖い名無し:2012/12/26(水) 00:09:20.17 ID:S8Rn/qBR0
俺が小学校5年生のころ、スポ少の野球クラブだったときのこと。
一つ上の先輩にYさんという人がいてレギュラーの一塁手だったんだ。
で、俺は1塁の控えだったからよく話をした。
Yさんの家は母子家庭で、母親の仕事が忙しくて試合の応援にはこられないし、
家に車がないから、送り迎えの当番にも入ってなかったと思う。
それにスパイクは卒業生のお下がりで古かったし、
ファーストミットはクラブの備品をいつも使ってた。
背が高くてファーストの守備はうまいんだけど、
ミットがクニャクニャになってていつもやりづらそうにしてた。
それでも落球とかはまずなかったけどね。

そのYさんがある日新品のミットを持ってきた。
たぶん買ってもらったんだと思うけど、
使った後はていねいに砂を落としてクリームを塗ってすごく大事にしてた。
それが夏前でもうすぐ大事な大会がある時期の練習の後に、
ベンチの下に忘れてったのを見つけたんだよ。
Yさんが帰ってからまだそれほどたってないし、
俺の家とは方向が途中まで同じだから、ミットを持って追っかけていった。
Yさんがスポーツバッグを持って歩いてる姿が見えたんで、
走って追いついて「ミット忘れてましたよ」と言ったら、
ぽけっとした様子で俺のほうを見て、
「ああそうか、ありがと・・・でももう使わないんじゃないかな」って答えた。
ミットは受け取ってバッグにしまったんだけど、
そのときの顔がすごく白かったのを覚えてる。

次の日も練習があって、Yさんに
「昨日、ミットを使わないかもしれないと言ってたけど・・」という話をしたら、
「えー俺そんなこと言った?ぜんぜん覚えてない」って普通に言う。
話はそれで終わって俺も気にしなくなった。
で、Yさんはその日の帰ってから家で食中毒になって入院して2日後に亡くなったんだ。
もちろん自殺でもないし、犯罪とかでもないと思う。
それ以来、まあたまたまなんだろうと思うけど、
「もう使わないんじゃないかな」という言葉が頭に浮かんでくることがある。
まあそれだけの話なんだけどね。

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