視線

9 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/06/21 01:50 ID:Q6Od0iCc
知り合いの話。 

地区の子供会で、キャンプをおこなった時のこと。 
炊事担当であった彼女は、夕食のカレーを支度していた。 
灰汁をすくっていると、不意に胸騒ぎがした。 
顔を上げて、河原で遊んでいる子供たちを確認する。 
中に一人、理由はわからないが、なぜか気になった子がいた。 
しかし異常は見られず、彼女は内心首を傾げながらも、調理を続けた。 
そのまま何事もなく、キャンプは無事に終了したという。

山から帰って二日後に、キャンプに参加した子供が一人急死した。交通事故だった。
彼女が気になった、正にその子だった。 

葬儀の後しばらくしてから、子供会の会合が開かれた。 
ついでだったのか、その席でキャンプの記録ビデオが上映された。 
亡くなった子も元気な姿で映っており、皆の涙を誘ったそうだ。 

やがて画面が夕食の準備風景に変わる。 
それまでばらばらに動いていた大人たちが、不意に同じ動作をした。 
一斉に顔を上げて、河原の子供たちをじっと見つめる。 
皆の視線が一つにまとまり、すぐに奇妙な顔をして持ち場に戻っていく。 

ビデオを見ていた人たちは、彼女を含め、全員が凍りついたようになっていた。 
それ以上キャンプが話題になることはなく、会合は終了したという。

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