片腕のじいさん

751 :1/2:2007/09/12(水) 20:56:15 ID:zzM1bmye0
俺が小学生の頃の実話。

俺の故郷はすごく田舎で、山に囲まれた、いわゆる過疎地だった。
ある夏休み。当時十数人しかいない村の小学生のうち、上級生5人で
肝試しをしようということになった。

と言っても小学生だから、何のことはない。
夜9時頃に、村の隅にある墓地まで行こう、というだけ。
むしろ墓地の隣に住む、戦争で左腕を失った偏屈じいさんの方が怖いくらいだ。

夜。片腕のじいさんはもう寝たらしく、家の明かりは付いていない。
田舎だから街灯なんてものもなく、辺りは真っ暗で、それなりの雰囲気を醸し出していた。

怖さを紛らわすため、皆でギャアギャア言いながら墓地に向かった。
と、先頭を歩いていたヤツがボソッと呟いた。

「何か聞こえる」

耳を澄ますまでもない。すぐ近くで「ポクポクポク」と、木魚の音がする。
そして、低音の人の声。それは明らかにお経だった。
声の方向に目をやると、墓の前に人が座っている。

「うわああああ」

と、大声を出しながら、皆一目散に逃げ出した。


翌日。さすがに5人が同じ話をするから、子供の戯言と放っておけなかったのだろう。
大人たちが集まって、原因を探ったらしい。

そして出た結論は、「あの片腕のじいさんが、夜な夜なお経を読んでたらしい」というものだった。
夜中に墓の前でお経はおかしいだろ、とは思えど、あのじいさんならあり得る。
そういう結論で、その場は収まった。



しかし…俺ははっきり覚えてるんだ。

「左腕」で木魚を叩く、人の姿を。

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