カラスがよく鳴いていた

221 :本当にあった怖い名無し:2007/08/17(金) 12:46:48 ID:inem8BaA0
もう10年くらい前の夏。今くらい暑い頃。
昼近くに買物に行こうと、俺は家を出た。
その日はやけにカラスがよく鳴いていた。
俺はカラスの鳴く家は死人が出るという言い伝えを覚えていて、ちょっと気味が悪くなった。
家の周りは夏の昼前というのに嘘の様に人気がない。
たった一人、陽炎の立つ路地を駅に向かって歩いた。
その時、いきなり、本当にふいに『ポンッ』と肩を叩かれた。
俺は下宿の奴が俺を追い掛けてきたのかと、笑いながら振り返った。
誰もいない。
陽炎に霞む俺の住む下宿が遠く見える。目に刺さる程の青空と白い雲。
遠く聞こえる蝉の声とカラスの鳴き声の中、本当に俺は独りぼっちだった。
暑いのに何故か俺は背筋に寒さを覚え、駅への道を急いだ。
大通りへ出ると、さすがに人の姿が多くなり、俺はホッと一息ついた。
人の姿の有り難みをこんなに感じたのは始めてだった。
が、俺は気が付いた。
すれ違う人が俺の顔を複雑な顔で見つめる。目が合うとサッと目を逸らす。
俺はこの町でそんなに有名だったっけ?
年のいった人の良さそうなおばさんも、不機嫌そうなおじさんも、可愛い女子高生も、皆、俺を怯えた様に見つめ、俺を避けようとする。
俺は一人で路地を歩いていた時以上の孤独を感じ、それ以上の居心地悪さを感じながら、駅までの道を急いだ。
駅に着いても人々は俺を疎外し続けた。
俺は逃げ場所を求めトイレに駆け込んだ。取り合えず独りに、人の目のない所に行きたかった。
取り合えず大便をし、意を決して個室を出、洗面台に向かった。
俺は鏡に写る自分の姿を見て、一気に血の気が引いた。
鏡の中の俺の、肩の上に何か白いものがベットリと付着し、それが背中側と胸のちょっと上辺りにまで流れて固まっている。
カラスのフンだった。

10年前の暑い日の思い出。

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