悪霊が住む家

696 :1/5:2007/07/30(月) 11:40:46 ID:EIK5FMq+0
ここは田舎の一軒家。悪霊が住む家。俺のことだ。
いつからここに居るのか、何でここに居るのか、俺は分からない。
訪れる人間に恐怖と呪いを与える。それだけ。とても楽しい。
危険な場所と分かっている筈なのに、ここに来る人間は後を絶たない。
ん?誰か来たな。こんな昼間に。昼なら安全とでも思ったか?
バカなヤツだ。

女が1人。死にたいみたいだな。安心しろ、ちゃんと殺してやるから。
部屋に入ってきた。さぁ、あそぼおおおおおおおおおお
生身を・・・掴ん・・・ん、なんだ?手が止まるのはなぜだ?
あぁ、来たのか。来れたのか。よかった。ほんとによかった?何のことだ?
女が何か言ってる。約束?誰との?俺は知らない。
いつも通り、殺すだけ。既に気が狂ってるだけか?何だろう、何だか・・・気分が悪い。

手を伸ばして掴む。削り取る。引き千切る。笑いが止まらない。

いつも通りそうしたいのに。なぜ届かない。まだ俺を止める気か?消えろ。
あぁ、気分が悪い。何か言ってる・・・俺に話しかけるな。ダメだ。逃げてくれ。
俺の名?思い出せ?何言ってんだ。表札にある通りだ。俺は寺坂。
何を調べたって?ここのこと?俺のこと?それが何だって言うんだ。早く・・・。

俺を知ってるのか?俺の名を・・・?
ダメだ、言うな。俺・・・名前は?名前は・・・牧・・・村?
何をバカな。俺は俺だ。俺だろ?誰だよ。俺の名じゃない。

・・・あぁ違う。違うんだ。俺なんだ。俺の名前なんだ。分かった。お前じゃない。俺なんだ。
あぁぁぁぁ思い出した。でもダメなんだ。ダメだダメだ。俺には出来ないんだ。
ダメだったんだ。なんてことだ。意味が無い。思い出したって、こんなこと、意味が無い。

俺は過信してた。自分を。
霊感が強かった。除霊も出来た。俺は優れた霊能力者だと言われた。
その道じゃ少し有名になった。
でも違った。優れていたのは使っていた道具だ。洗礼された道具だ。
俺自身は弱かった。ここに来て分かった。こいつに直接触れられて分かった。
俺には何も出来なかった。情けない。俺は震えた。怖かった。
結果、この通り、殺された。

そして、あぁ最悪だ。俺は取り込まれた。吸収された。知識を奪われた。
優れたバカな霊能力者は行方不明になった。たちの悪い悪霊になった。
意識は残った。でも徐々にそれも奪われて・・・こんな有り様だ。

頼む、逃げてくれ。死なせたくない。もうあの時とは違う。
こいつは更に力を増した。本気で動き出した。これ以上止められない。
手が届くぞ。動けないのか?もう?あぁぁぁ・・・届く・・・掴ん・・・だ。
くそっ・・・削らせる・・・ものか・・・!固まれ・・・!!

・・・何か聞こえる。直接全身に響いてくる。
何だろう?これは・・・死者の言葉?呪歌?
こいつに向けて響いてる。苦しんでる・・・!どこからだ?
生きてる人間の言葉じゃない。生きてる人間が喋れない言葉だ。
手か。手からだ。掴んでる手。俺が固めてる手。先に何がある?
・・・なんてことを。刻んで来たのか・・・?その身に、呪歌を。
その手を掴み返し、直接流し込んでいるのか。危険なことを・・・。

しかし何故?あぁ、そうか、病気か。前に言ってたな。薬による五感の麻痺。まるで死者に近い存在。
生死の境から、戻ってきたんだな。そのまま持ち帰ってきたんだな。死者の業を。

あんた、強いな。そんな業を背負って生きていられるのだから。
そうだよな。大事なのは、意志の力だよな。病気にも勝てた訳だ。
あぁ、苦しんでる。消えていく。ここに住んでた奴。昔から居た奴。
ただ人を殺すだけが目的の、悪霊。取り込んでた俺が離れて、呪歌を受けて、消えていく。

・・・終わったな。
あぁ、俺も消えないと。何か、出来ないかな。
それ、持っていってやるよ。苦しいだろ?その業は。なんでわざわざ持ってきたんだ?
ん?ハハ・・・照れるな、それ。でも俺、何もしてないぜ?

いや、君の力さ。病気に勝てたのは。頑張ったんだな。嬉しいよ。本当に嬉しい。
また会いたかったんだ。出来れば、俺が生きてるうちに会いたかったけどな。
よし・・・もう消えそうだ。ありがとうな。助かったよ。
ハハハ、こちらこそ。

・・・えぇと、最後に、やっぱ俺らしいこと言わないとな。
また、会おう、な。いつか会えると思うんだ。
あぁ。そうだな。その通り。
その業は、いいのか?そうか。背負っていくのか。
どこかで誰かを救う、か。君なら出来るよ。・・・俺とは違う。

ふふふ、ありがとう。それじゃ、また会える時まで。元気でな。
本当に・・・ありがとう。
さようなら・・・。

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