田中さんからの要望

604 名前:本当にあった怖い名無し Mail: 投稿日:2020/09/21(月) 16:57:07.76 ID:2wG/zsQT0

 霊感は無いので、お化けを見たとかといった類の怖い思いをした事はありませんが、これは実際に私が体験した、少し不思議だなと思った話です。
 普段、私は市役所の土木事務所に勤めていて、道路や水路を管理する仕事をしています。
 勤務時間は、朝8時30分から夕方5時15分までです。
 そのため、道路が陥没したり、倒木が発生するなど、緊急事態に備え、時間外は緊急受付センターに電話が転送される仕組みになっています。
 
 しかし、中には急を要しない案件もあり、そういった場合は翌日、要望内容が書かれたFAXが事務所に送られてきます。
 その日の朝も、FAXが届いていました。
 水路に土砂が溜まり、水が淀んで臭いので、土砂を取り除いてほしいという内容です。
 
 二枚目に地図が付いており、要望箇所はこの辺りと、かなり曖昧に印がついています。
 電話での対応なので、意思疎通が上手くいかず、正確な場所が上手く伝わらない事もあります。
 そういった場合は要望者に再度連絡して確認することにしています。
 
 送られてきたFAXには、要望者氏名欄に「田中さん」と記載されていましたが、電話番号欄には、「お伺いできませんでした。」と書いてあります。
 近年は個人情報に敏感な人が多く、電話番号を伝えたくない人もいます。

 少し厄介な案件だと思いましたが、こういった類の要望は、通りがかりの人が電話してくる事は少なく、
 おそらく要望者の家の前の事だと思い、住宅地図で「田中さん」を探しました。
 しかし、「田中さん」は見つかりません。
 
 使っている住宅地図は少し古く、最近引っ越して来た可能性もあるので、とにかく現場に向かう事にしました。
 そこは山沿いのごく普通の住宅地でした。
 まずは、要望箇所周辺の表札を一軒づつ確認することにしました。
 かなり広い範囲を探したのですが、「田中さん」は見つかりません。
 
 そこで、水路沿いを歩いて、土砂が溜まっている箇所はないか探す事にしました。
 しかし、なかなかそれらしき場所が、見つかりません。
 さらに広い範囲を歩いて漸くそれらしい場所を見つけました。
 しかし、そこは住宅地から少し離れた場所です。
 
 たしかに土砂が堆積していて水が淀んでいましたが、臭いはほとんどありません。
 本当にここの事かなと思いながら、ふと後ろを振り返ると、そこは墓地になっていて、墓石には「田中家の墓」と刻まれていました。

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