真新しいプール

553 :99 197:2007/06/10(日) 03:53:15 ID:ui3aOVcUO
これは高校時代の話。
七月の半ばになると、体育の授業が選択制になる。
高校には真新しいプールがあって、選択で水泳を選べる。
体育館でバスケか、グランドでサッカー、女子はバレーかバドミントンか水泳となる。
高2の夏、6月の後半辺りからずっと、猛暑だった。選択では勿論、水泳を選択した。
糞暑い中を、走り回っていられるか。俺はこの季節は必ず、プールを選択している。唯一、女子と合同になるのも水泳だった。
しかし、プールが解禁になって、プールサイドに並んだのは野郎が七人。女子ゼロ。
まぁ、いつもの事だけど。学年で水泳部が三人とヤンキーまがいが二人。(ダルいが口癖)後は裸体自慢と俺。
極めて少数派だ。
水泳部の連中とは、話す事が無かったので、裸体自慢のヤケに肌が黒いヤツがいつも、話相手だった。
大胸筋を鍛えるにはどうのとか、三角筋の重要性だとか、服を脱ぐ前にはポンプアップがどうのとか、話していた。
ヤツは170前後の身長で、いつも俺を見上げるように話していた。
「君、肌が白いね。夏なのに」とか
(悪いね。日焼けしない体質なの)
「意外と胸筋あるね。腹筋もいい感じで割れてるね。」とか
(生まれつきだからね。悪いね。)
「スポーツテストの掲示見たよ。握力70もあるの?背筋は200ってマジ?俺と変わらないね。細いのに。タッパがあるからかな。」とか
(知らんがな…。)
「科学部なんて、惜しいね。スポーツしなよ。」とか
(顕微鏡が好きだし、ある意味、帰宅部だしね。都合がいい)
「サーフとスノボしてるんだ。俺もやりたいな。」とか。
とにかく、ウザイヤツだった。

水泳の授業中は色気なんて無いに等しかった。
体育の先生は男女二人で、女の先生は若くて可愛い人だった。でも、水着姿になったのを見たことは無い。
どちらも、男子と女子の監視に付きっきりで、水泳部の監視のもと、自由時間となる。
初めに50Mの自由形のタイムを二回取って、後は自由だ。
グリーンの金網越しに炎天下、ボールを追いかけている連中を横目に、ゆっくりとプールを泳ぐ。
体育館の二階の窓から、よく品定めのように女子達が覗いている。
プールサイドでは、明らかにそれを意識した裸体自慢が、上半身に力を入れている。
水泳部の一人は、見栄を張って、海パンの中に何かを入れているのは、去年から知っていた。
仰向けになって、水面に浮かんでいると、水しぶきが顔にかかり、鼻にツーンと塩素臭いプールの水が入った。何だと思えば、裸体自慢が目の前にいて、潜水競争しようぜと言ってきた。
「先に一往復した方の勝ちな。負けたり、途中で立ったら、全裸で背泳ぎな。」
と言ってきた。
なんて低俗な…まあ、いいよ。
と思い、勝負をした。
よういドンで水に潜り、壁を蹴る。
プールの底、スレスレを手を大きくかいで、スイスイ進んでいく。
俺はプールの真ん中のコースで、排水口のフタの辺りにさしかかった時だった。

排水口の辺りまで、さしかかった時だった。
急に体が重くなり、吸い込まれるように、排水口のフタに胸がつく。
背中を押し付けられるように圧迫され、息が続かない。
次の瞬間だった。
首根っこをつかまれ、プールの底に、押し付けられる。明らかに人の手のような感覚だった。
何度も押され、反発すれば底にぶつけられる。
口の端から空気が徐々に漏れ、酸素が足りなくなり、意識が暗闇の中に引きずり込まれる。
このまま、深く呼吸してしまえば、大量の水が一気に、肺に入り込み、意識を失い、死に至るだろうと思った。
必死で、手足をもがくがまるで、手応えが無い。背中には誰も乗っていないのか。
口から空気の泡がぶくぶくと、漏れてしまい、反射的に呼吸をしてしまう。
大量の水が、気管に入り込んできた瞬間、混乱の中、精神を一点に集中した時だった。
裸体自慢は折り返しの壁を蹴るあたりだった。
激しい水柱が上がり、痺れるような、震えるような、感覚だったと、後に水泳部と裸体自慢は証言した。
水しぶきが収まると、中央には俺がぷかぷか、浮いていて、意識が戻ったのは、プールサイドで水を吐き出している時だった。
異常を感じた先生が金網越しに問題発生かと聞いてきて、水泳部のヤツは大丈夫です。問題ありません。と言った。おいおい…。
後ろで水泳部の二人がカタカタと震えているのがわかった。俺の背中には無数の爪でかきむしったような、引っかき傷が…。
その夏、水泳部の奴らはプールに入るのを恐れた。
新設のプールで、事故は起きた事が無いし、去年も水泳を選択したが、霊などいなかった。浮遊霊がこんな出過ぎた真似はしない。
初めて、自分が魔の瞬間に差し当たり、LPTの発散を経験した時だった。
消去できたか、取り逃がしたかはわからない。

ちなみに、余談があるのだが、あの後、裸体自慢と口論になった。
「お前は途中で溺れたんだから、全裸で背泳ぎしろ。」
(お前だって、途中で立っただろ?)
「勝負は勝負。どう考えたって俺の勝ちだろ?」
(普通に考えて、無効試合だよ。カス)
話のつかない争いにヤキモキして、俺は海パンをずり下ろす。
「全裸で背泳ぎしりゃいいんだろ!貴様!」
裸体自慢は下半身をジロジロと見て、ショックを隠せないようだった。
あの時は、俺もどうかしていた。
多分、脳に酸素が行ってなかったんだろ。
フェンス越しに可愛い体育の若い先生が目を丸くしている。
所々で、キャーッという女子生徒の悲鳴。
裸体自慢は自分の肉体美で俺の股関をカモフラージュする始末。
男の先生の鬼のような怒鳴り声が響いたのは、次の瞬間だった。

その後、職員室で俺と裸体自慢はこっぴどく怒られ、一時間まるまる怒られ、反省文も課せられた。
公然わいせつでもおかしく無いんだぞ!と怒鳴られると、裸体自慢はきっぱりと、「これは男と男の真剣勝負なんです!」と言って殴られた。
体罰だな…。
一週間ほど、女子のヒソヒソ話のネタにされたが、別に気にもならなくなり、普段通りの生活に戻った。
裸体自慢には少し、悪い事したな。と思い、彼の「スポーツしなよ。もったいない。」を受けて、帰宅部を退部し、彼の誘いでラグビー部に転向した。
彼は満足気で、俺はマンドクセと思っていた。結構、休んだけど。
三年に進級すると、クラスの担任はあの若い体育女教師だった。ホームルームの間、一年間、目も合わせず、シカトが続いた。
まあ、いいけど。動揺してるのか?
若き青春の日々…。

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