双子のような二人

815 本当にあった怖い名無し sage New! 2011/11/12(土) 23:13:57.26 ID:zubx/1uy0
長い批判上等。
つうかそうじゃなきゃ語れない。面倒だったらNGにでもしてくれ 。

俺(M)には義弟(B)がいた。二人とも叔母に凄くよく似てたけど、俺は紛れも無く俺の両親の子。 
Bも叔母夫婦の子供だってのは間違いない。
叔母夫婦が子育てができなくなった後、俺の両親が話しあってBを引きとった。

苦い思い出が一杯だ。
子供ってめちゃくちゃ純真だけど、暇な主婦の悪知恵がくっつくと残酷に早変わりする。
あんまりにも似ているものだから 
本当は実の兄弟なんじゃないかって 
誰が言い出したのかしらんけどそういう疑念を生んだ 
それを真に受けた同学年の誰かから噂が広まって 
親父はそいつらの噂の中では叔母と不倫した最低野郎扱い 
汚いだのなんだの俺もBもさんざんイジメられたもんだ 
Bが悪いわけじゃないのはわかってる 
けど小坊でこんな目にあったおかげで 
Bのことを恨みに思うことも少なくなかった 

俺たちがやっとまともな兄弟に戻れたのは高校の終わりの頃 
なんかの拍子でものすごい大げんかやった 
何がきっかけだったのかはおぼえてない 
Bは肩を脱臼して俺はアバラに罅がいった 
ふたりそろっておんなじくらい青紫色になるまで打撲多々 
恨みつらみ吐き出したあとは揃って仲良く入院 
ベッドの上で和解した 
俺たちが悪いわけじゃないと分かった上での喧嘩だったしな 
トラウマ引きずって中学高校と随分お互い攻撃しあった 
その分の恨みをすっきり解消したら普通に理解しあえた 
下らない妄想好きの主婦は死んどけって言ったら 
Bがそうだそうだってのってきて 
病院内で死ぬとかなんてこというのって二人して看護婦さんと医者にこってり絞られた 
ごめんな 
でもあの時ああやって笑うことが俺たちの見えない傷にとって一番の薬になったんだ 

俺とBは同じ大学に進学した 
うちはBを引きとったものの 
けして裕福じゃなかったんで 
ふたりとも進学希望だったから 
学費の工面に苦心した親父は 
勤務先で募集されてた海外赴任に名乗りでて 
房総半島の海岸沿いにあった 
小さいけれども楽しい我が家を売り払って 
俺とBの学費と学生の間の生活費を工面してくれた 
お袋はその親父の赴任についてった 
二人で学校推薦の寮に入った 

大学での俺達は公然と従兄弟だけど双子同然と名乗った 
入学する前に話し合ったんだ 
また妙な噂が立って嫌な思いする前に 
こっちから言って陰口叩かせないようにしないかって 
Bは兄貴とまた関係こじれるのも嫌だし 
親父には悪いがそうしようと言った 
親父が不倫でもしたんじゃねえかとかいって 
二人してゲラゲラ笑う作戦は大成功 
小学校の時みたいなトラブルは起こんなかった 
当の本人達があっけらかんとこんなこと言えるくらいだから 
ありえないよねって感じで変な噂はこれっぽっちもなかった 

やっと俺たちは本当に兄弟になれた 
そんでもって嘘じゃなく双子同然だった 
良いと思う女子も同じ 
興味を惹かれたサークルも同じ 
興味のある講義も同じ 
二年から少しずつ選択増えてったんだけど 
申込書見せ合ったら選択内容がほぼ同じで二人してげらげら笑った 
本当は従兄弟なのにやけに波長が合ってた 
多少違いはあったけどな 
俺の方が空手サークルでは強かった 
そのかわしあいつのほうが冬山ではかっこよかったな 
俺はスキー板はかせてボーゲンでゆっくりだったけど 
あいつは板並行にして雪飛沫あげる技ってあるじゃん 
たった一日であれできるようになってたし 
あいつのほうがモテた 

三年の12月のことだ 
11月の終わりから俺には彼女(Y)ができてた 
ある日Yがデートしてない日のデートのことを語りだした 
最初に浮かんだのはもちろんBのこと 
まさかBがこんな下らない真似をするわけはない 
俺の頭がどうかしたんだろうかと思いついて 
ものすごく心配になった 
その場はYに喋らせて肯定する形でかろうじて乗り切った 
この頃の俺達は親父達が工面してくれた生活費は使いきっていて 
二人で交代でバイトして必死でやりくりしてた 
病院にかかるとか頭の病とか言われたら 
生活なんて一気に成り立たない 
脳みその心配をしてたある日 
かなり荒れてた中学高校時代の記憶が朧げすぎることにきがついて怯えた 
本当に脳の病なんじゃないか 
もしかしたら若くしてボケてBの面倒になるんじゃないか 
それだったらいいが脳がどうかして植物人間になったりするんじゃないか 
だとしたらそうなる前に死んだほうがいい 
Bに余計な負担をかけたくない 
Bだけでも立派に育った方がいいんじゃないか、なんてな 

クリスマスイブはBが働いてるコンビニにいた 
Bが体調が悪いっていうものだから 
兄貴の俺が代わりに頑張りますつって無理言って働かせてもらってた 
バイトの交代が風邪だのっていって朝までコースになった 
超過勤務で増える手当もあったんでるんるん気分 
Bに電話入れて朝帰りになるって告げた 
午前一時近くまで働いてると店長の奥さんがきた 
学生さんにこんな時間まで働かせる主人を許してやってねみたいに言われて 
ハッピークリスマスって言って封筒に入った五千円札を給料とは別に下さった 
がんばってりゃいいこともあるもんだなと喜んで 
惣菜屋によってBと俺が大好きな唐揚げ沢山買い込んで帰った 

寮に戻ると静か 
寝てるんだろうから起こさないように気をつけて 
台所の電気だけつけて 
惣菜を冷蔵庫に閉まってた 
「え?きゃっ」 
そんな声が聞こえた 
Yの声だった 
振り返るとベッドの上でYが肩まで毛布をかぶってた 
「B君、ご、ごめんね」 
Yの横でBが毛布から裸の胸をさらしてやがった 
台所の包丁立てが目に入った 
俺はYに返事をするより包丁を凝視してた 
「B君。む、向うむいててくれる?」 
そんな声が聞こえながら 
俺はあの包丁をたまらなく手に取りたくなった 
それをしなかった 
それは嘘だな 
手を伸ばしてつかむ寸前で 
親父の顔がぱっと頭に浮かんだ 
だからつかわなかった 
Yがそんな俺をみて怯えた様子だった 
凄く長いため息をついた 

Bは起きなかった 
Yは着るもの着てそそくさと帰ろうとした 
タクシー乗れる場所送っていくよといってついてった 
B君、B君とYが俺を呼んだ 
タクシーが捕まるまで結局Yは俺をBだと思い込んだままだった 
「じゃあね。B君」 
「俺がMだったとしたら、こういう時どう言えばいいんだろな」 
「え?変な冗談やめてよ。なんか変だよ」 

家に帰って始末をつけた 
Bを叩きおこしてYを送ってきたと告げて 
Bの荷物をほうり捨てて追い出した 
真夜中に寮で随分騒々しくしたおかげで 
同じ階の連中にとんでもなく迷惑かけちまった 

Bは二週間近く俺をつけまわして土下座したりなんなりしたが 
俺は進行方向を邪魔されても踏みつけてその上を歩いた 
そうやって徹底して無視を決め込んでいたらBは消えた 
消えて数週間後に教授から呼び出されて 
前払いで預けてあった翌年分の学費の払い戻しを告げられた 
Bが退学届をだしにきて学費の払い戻しは兄貴に渡してくれといってたそうだ 
これだけどでかい騒動だ 
Yがあの冗談が本当だったと気づいた 
Yは俺に詫びに来て二言目には別れようと言ってきた 
気まずそうに言っていたら承諾はしてなかったかもしれない 
Yが号泣してたから俺は頭をぽんと叩いて 
いつでも健康を祈ってるつって別れた 

あれからもう十年近く経ってる 
最近になって仕事からかえると玄関先で土下座するBが見えた 
俺のみたそのBの幻覚は喉に穴が空いていた 
この話を親父達にするとオヤジ達はBが最近咽頭がんの闘病も虚しく死んだと言った 

Bは親父達にはとんでもないことをしでかしたと白状して 
もう兄貴には顔向けできないといって 
大学を中退したあとホストをやってたらしい 
喉に負担をかけたのがわるかったのか 
癌とわかるより一年以上前から 
喉に違和感を感じてたらしいんだが 
ホストってきつい仕事だったらしくて 
昼間も営業の他はぐーすか寝る仕事だから 
病院に行く暇がなかったらしい 
分かったときは咽頭癌はじめ全身転移72ヶ所 
骨髄もやられて鎮痛剤もきかずに毎日拷問をうけてるようにのたうって死んだそうだ 
あいつが命懸けで稼いでいた金は親父達のもとにいって 
俺が大学院を卒業するための学費になっていたといまさらになって知った 

もう謝らなくて良いと声をかけても 
これまでのところただの一度も顔を上げない 
未練を残したまま死ぬもんじゃないな 
生前も苦しんで死後やっと許しをもらってもそれにすら気づかないとか 
どんな地獄だよそれ  

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