コダマネズミのはなし

778 名前:コダマネズミのはなし 1/3[sage] :04/08/20 11:39 ID:7VHMw1y5
皆さん。 
皆さんはコダマネズミを御存知ですか。 
猟師が獲物を求め山を歩いていると、ぽん、と何かが破裂する音が聞こえる事があるそうです。 
それは、コダマネズミがはじけた音。 
近寄って見てみると、そこには、背中が裂けて内蔵を飛び散らかしたネズミの死骸があるそうです。 
この音を聞いた猟師は、 
 そっちはこだまのるいか。 
 こっちはしげのるい。 
 ぶんぶきままにくうらす。 
 なむあびらうんけんそわか。 
と3回唱えなければ、猟を続けても獲物は捕れず、なにか障りが起きるとさえ言われています。 
何故、数ある獣のなかで、コダマネズミだけがこんな無惨な死に方をするのか。 
こんな言い伝えがあるそうです。 

むかし、むかし。今の秋田県あたりの山中にふた組の猟師の組が入っておりました。 
一方はこだま衆。 
一方はしげ衆。 
彼等は集団ごとに山に入り、協力しあって猪や熊、羚羊などの狩を生業としていました。 
季節はもう冬。 
冬の事とて獲物は少なく、気落ちしたこだま衆が狩り場を変えようと移動している道すがら。 
山道に、大きなお腹を抱えた、若く美しい女が蹲っております。 
「薪拾いに山に入りましたが、生憎降りる前に産気付いてしまいました。 
お願いです。貴方達の小屋で子供を生ませていただけませんでしょうか?」 

猟師にとって山は神聖なものです。女は山に入れない、とされておりました。 
まして、お産は、死者のケガレ、(女の)月のケガレと共に、最大のケガレとされております。 
(皆さん御存知のように、神社は今でもそうですね) 
しげ衆の頭領は憎々しげにこう吐き捨てました。 
「女、何処なりと行ってしまえ。ちっ、縁起が悪い、もう今日の狩りは終わりだ!」 
女は追い立てられ、悔しそうにこだま衆を睨みながら立ち去った。 

猟を終えたしげ衆たちが山小屋で粗末な食事を取っていると、 
先程の女が助けを求めてきました。 
しげ衆にとっても、妊婦など歓迎しかねる存在には違いありません。 
しかし、あまりに苦しそうで哀れな様子に、しげ衆は、招きいれ介抱してやることにしました。 
その明け方、女はなんと12人もの赤ん坊を産んだそうです。 
驚くしげ衆に、女は厚く礼をのべ、続けてこう言ったそうです。 
私は山神です。今日の御礼に、貴方達には山の幸を授けましょう。 
明日、狩りをすれば、何でもお好みの獲物が得られるはずです。 
...それにしても、憎いのはこだま衆。貴方達、猟の帰り、こだまの小屋に立ち寄ってみるがよい。 
私の怒りが並み大抵のものでは無いことが判るでしょう...。 

言われた通り、その日の狩りは、当分遊んで暮らせる程の大猟でした。 
そして、帰りにこだま衆の小屋によってみると...小屋には誰もいませんでした。 
しかし、小屋の片隅に...もう、皆さん判りますよね。 

前の話へ

次の話へ