山で遭遇してはいけないモノ

 456 名前:ものかき卵 2008/01/30(水) 05:14:27 ID:J7kYyC/fO
老人の話は良く聞くこと、決して聞き流してはいけない。
耳を傾けるだけでもいい、それを怠るとこの男の様になり得ない、是非注意して頂きたいものだ。

武男は毎年お盆になると実家の福島へ帰省していた。
今年も変わらず会社に有給届けを出し実家へ帰る、ただ今回武男にはちょっとした目的があった。
武男は元々田舎育ちでは無く、福島の実家も親が少ない退職金を使い移り住んでいた。
せっかく田舎に行くわけだから山を心ゆくまで満喫したいという小さな目的だった。
早朝都内の家を出たおかげで昼頃には実家へ着き、一段落着くことが出来た。

昼食も終わり武男は目的である山歩きをしたいと父に話した、母親は良いわねぇと賛同したが父は顔をしかめ、ぼやきだした。
昼からじゃ帰りが…、もし迷ったら…、山道は危険だ…、武男の父は小さい頃田舎暮らしだったので山には詳しい。
父が話しているのをさえぎる様に武男は母親に行ってきますと声をかけた。
気を付けろよ、早く帰れ…、山はな…、父はまだ話していた。
武男はわかったと一言、煩わしく感じたのかすぐさま家を出た。

山とはいえ、実家の周りが山に囲まれているため武男は気楽に歩きたかっただけなのだ。
道なき道を無心で歩く、それだけで武男は自然と心地よさに満たされてゆく。
一応携帯を確認してみると電波は届く様だ、武男は少し安心した。
その安心のせいか武男は自由に歩いた、暫くして周囲を見渡すと…。
案の定武男は道に迷ってしまった、この時点ではまだ家からそんなに離れていない為、簡単に引き返せるだろうと武男は思った。

ところが、そうはいかない。
辺りは次第に暗くなってゆき武男にあせりが見えた。
武男に恐怖が芽生え始めた時、武男の表情が安堵に変わる。
遠くに人影が見えたからだ、どうも地元の男の人だろう、武男は大声を出し男に迷ってしまい道を教えて欲しいと声をかけた、…その時。

プルルル、プルルル。

武男の携帯が鳴った、父からだ。父はどうやら心配し電話をかけたらしく、大丈夫かっ?迷ったのか?…と一方的に話を続ける。

武男はもう安心しているのか、大丈夫だからと父に話した。
しかし父は話を続けた、
おまえ山は危ないんだぞっ、山には何が居るか、おまえは山を知らな過ぎるっ、山で遭遇してはいけないものを知っているかっ!?
武男が熊だろ?と言いかける…その時。

「人だよ」…父が呟いた。
武男の心臓が凍る。
武男にその言葉の意味がわかるまで、そう時間はかからなかった。
息を詰まらせた武男、前を見ると男はすぐ側に立っていた、落ち行く夕陽を背にし……、表情をピクリとも変えずに。 

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