呪いの黒電話

当時小学4年だった俺は、近所の仲の良い友達に誕生日会を開いて貰った。
とは言っても、メインイベントは俺の家での夕食だけど。
俺達は当然の様にその前から遊ぶことになった。

昼飯を済ませてから集まる。
そんな暗黙の了解があったから、13時くらいからプレ誕生日会は始まり、俺達は外に野球をしに行った。
ギラギラと太陽がまぶしくて、酷く蒸し暑かったのを覚えている。
野球が終わっても、かくれんぼやだるまさんが転んだをやって遊んでいたが、ふと太陽が赤く傾いているのに気付いた。
そろそろご馳走の時間だな、と俺達は思い出し、親たちが待っている家へ急いだ。

家に着くと、何とも言えない脂っこそうで旨そうな匂いが漂ってくる。
結構な大人数ということもあり、質より量で勝負のご馳走になるようだ。
まだ食事の用意が終わっていないと言うので、少し待つこととなった。
俺達はやることが無かったので俺の部屋に行き、マンガに没頭することになった。
俺は自分の机の引き出しを開けて、面白いものがあるか探してみた。

「なぁなぁ、この電話番号知ってる?」
と、特に仲の良い亮介に向かって話しかけた。
「え、なにそれ?誰の番号?」
俺はニヤリとして、亮介と玄関にある古ぼけた黒電話に向かった。

電話の前に立った俺は、ポケットから紙切れを取り出した。
取り出したのは6年生の兄貴にもらった電話番号を書いた紙。
「ジャーン!さあ注目!この番号に電話をすると、一体どうなると思う?」
「え、なになに?どうなるの?」
亮介は無邪気に返す。
俺は得意になって続ける。
「これって実は、かなり極秘っぽい番号なんだけどさ。
この番号にかけると、なんと!かけた電話が呪われるんだって!」
紙をヒラヒラさせながら俺は言った。
「え!マジで!!?」
「凄いだろ?今からかけてみるぞ」

電話番号をダイアルする。
1コール目で相手が出た。
・・・相手は一切無言。
・・ブゥーーン・・・と、低くうなるモーター音みたいのが聞こえるだけ。
10秒くらい待ったが変化がないので、電話を切る。

・・・5秒ほどしただろうか。
予想通り黒電話はベルを鳴らし始めた。
すぐに受話器を取り、耳にあてる。
「もしもしっ!?」
受話器から流れるのはブゥーン・・という音。
俺は満足して、受話器をゆっくり元に戻した。
「な、呪われただろ?」
ところが亮介は???って顔をしていたので、実際に亮介本人にやらせてみることにした。

実際やってみると本人は結構驚いていたが、同時に先ほどの"呪い"という言葉に過剰に反応してしまっていた。
「こ、これってほんとに呪われるの?」
心持ち青ざめた顔をした亮介に、俺は苦笑しながら否定した。
「いやいや、本当の呪いなんてあり得ないから」
亮介はあまり納得した様子ではなかった。

亮介の反応を見て、俺はちょっとした悪戯心が芽生えた。
「ちょっと番号変えてみようぜ。
もしかしたら似たような事が起きるかも知れないし」
亮介はかなり臆病なので嫌がっていたが、俺は気にせず受話器を持ち上げた。
試しに下一桁の番号だけを変えてダイアルしてみた。
存在しない番号かもと思っていたが、呼び出し音が聞こえた。
そしてまた同じように1コールで相手が出た。
「やった!すげー!」
と興奮した俺だが、1秒後にはそんな気分は吹っ飛んでしまった。
「ヴヴァーー!!」
鼓膜が破れるるような、ものすごい大音量。
目の前で獣の断末魔を聞くような生々しい質感。
脳天から背筋に電撃が走り、俺は電話を叩きつけるように切った。
ガチャン!!

・・数秒後、かかってくるな!と念じてた俺を裏切る様に、電話が鳴り出した。
心臓の鼓動が聞こえる程に速くなる。
「なあ、一緒に受話器の音を聞こう」
俺は怖くなって、震えるような声で亮介に言った。

「もしもし・・・」
呟くような声はほとんどうち消された。

「みぃーーーつぅーーーけぇーーーたぁーーーぞぉ!!!」

地獄の底から聞こえるような太くておぞましい声。
それに続く狂ったような笑い声。
俺達は金縛り張りになったように動けず、受話器は手から滑り落ちた。
そしてガクガクする手で白いレバーを下ろし、何とか電話を切った・・・

誕生日は一転して最悪の日になった。
せっかくの誕生日会も、あまり楽しめた記憶はない。 

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