エレベーター

417 :1/2:2007/06/04(月) 22:59:55 ID:YRSiXenA0
ほんのりですらないかもしれませんが……。

つい先日、午前2時頃まで残業をしていました。
8階建てビルの最上階にあるオフィス(といっても30人でいっぱいになる程度の狭さですが)には、もう私一人だけになっていました。
帰り支度をすませ、自前のコップをすすぎに行こうと水屋へ行きました。
水屋はいったんオフィスを出て、正面にあるエレベーターのすぐ脇にありました。
オフィスの扉を開けると、エレベーターの表示板の「1」が点灯していました。
このビルのテナントはどこも早く閉めてしまうようで、午前を回って残業している会社なんていつもウチだけでした。
私はエレベーターのボタンを押し、あらかじめ8階に呼んでおこうと思いました。
そして脇の水屋で自分のコップをすすいでいると、「ガコン」と音がしてエレベーターが8階に到着したようでした。扉が開いたのでしょうが、こちらからは首を伸ばさないと見えません。
と、コップの泡を洗い落としていた私の背中を、何かが通り過ぎたような気配がありました。
とっさに振り返りましたが、30センチほど背後に壁があるだけで、誰もいませんでした。
もちろんそんな隙間なら、誰か通ったらぶつかるか、少しぐらいは視界に姿をとらえられるはずなのですが……。

足元を見ると、プラスチック製の丸いゴミ箱が、車の片輪走行のように片足を上げてくるくる回っていました。
知らない間に私に当たっただけのことかもしれませんが、急に怖くなり、コップはそのまま台の上に放り出し、オフィスに戻ってカバンを取り、鍵を閉めて8階で止まったままのエレベーターに乗り込みました。
エレベーターの中ではずっと目をつむっていました。
そのまま何も起こらず、1階に着きました。
ドアが開くと、正面の柱に警備用の操作パネルがあり、そこにパスワードを登録して「警備開始ボタン」を押して帰宅するのが、このビルのテナントの決まりとなっていました。
私は少し焦りながらパスワードを入力していました。
すると背後でエレベーターのドアが閉まりました。もちろん、一定時間が過ぎたのだから、閉まるのは当然です。
が、私が見つめているエレベーターの表示板の明かりが、「1……2……3……」と右へ動いていくのです。
私は目をそらすことができません。
やがて最上階まで到着し、1階を目指して降りてきました。
私はその明かりを警戒するようにじっと見つめたまま、「警備開始ボタン」を手探りで押しました。
表示板の明かりが3階から2階へ移った辺りで、私は駆け出してビルを出ました。
もう誰もいないはずだったのに。あのエレベーターで、一体何が降りてきていたのでしょうか。

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