影の気配

934 :934:2007/05/11(金) 16:03:15 ID:apL0zTBI0

怖いというか不思議な体験なんだが…。
うちは5人家族で、私が中学に上がるまで、両親の寝室である2階の和室に5人で布団敷いて寝ていた。
その和室は、階段を2階に上がって、Uターンするように廊下を少し真っ直ぐ行った目の前にあって、私の位置は、廊下に繋がる襖からみて、右奥側の隅っこだった。
廊下には、Uターン地点に窓があって、月が昇っている日は、廊下はほんのり明るい程度で、和室も雨戸閉めっぱなしだし、ほぼ真っ暗。
ある日、夜中1人で目が醒めて、少し寝付けずにいたんだが、ふと廊下側の襖に目をやると、少し隙間が開いてたんだ。その日は月が綺麗に出ていて、廊下も青い光が入っていて明るかった。
逆光のような感じなのだが、暫く隙間を見ていると、ぬっと影が隙間に現れた。
ちょうど、隙間から中を覗くような感じ。
逆光だし、部屋は暗闇なんで、色なんかハッキリしないし、その影が何かも見えるはずがないんだが、感覚的に、おかっぱの髪の、赤い着物を着た女の子、という雰囲気だった。
不思議なことに全く驚かなかった私だが、「なんだろう?」と思って暫く見ていると、その影は音もなくすっと隙間から消えた。
でも、音もないのに階段を降りる気配がして、興味本位で着いていくことにした。
というより、呼ばれている気がして。

廊下に出ても、音もないのだが、何かが階段を降りる気配はまだある。
階段は1本、真っ直ぐに1階まで延びていて、降りた目の前にはリビングへのガラスのドアがあるんだが、廊下をUターン地点のほうへ歩いていると、その気配がリビングへと入っていった気がした。
私は階段を静かに下りて、リビングのドアのノブを握り、ドアを開けてみる。
リビングは、ダイニングキッチンと繋がっていて、左手奥に勝手口があるのだが、見た訳でもないのに影が勝手口から出たという気配があったので、また気配を追って勝手口へと向かった。
すると、夜だから鍵をかけてあるはずの勝手口の鍵が開いている。
うちの母親は几帳面で用心深い人なので、鍵を閉め忘れる事はない。
勿論誰かが寝る前に開けたと言うこともない。
出て行ったからかな?と思い、自分も後を追う。
追う、というよりは、呼ばれたからついていくと言ったほうが的確な感じ。
影勝手口のノブを回して、適当にサンダルを履き、そっとドアを開ける。
呼ばれている、という意識だけでドアを開けて、一歩外に出た瞬間、ぐっと誰かが私の肩を強く掴んだ。

そこで初めて驚いた私が勢いよく振り向くと、そこには物凄い慌てた母がいた。
「どこいくの!」
と言われて、誰かがいたよ、とも言えず黙っていたのだが、気付くと影の気配も消えていて、私は仕方なく部屋へと戻った。

その日限りでその影を見た事もなく、別にうちの家が建っている場所は曰く付きの土地でもないと思う。
何年たっても、あの時の様子ははっきり覚えているし、記憶が曖昧になる事もない。
勿論夢遊病の症状も見当たらないし、後にも先にも、あの経験は一回だけ。

あれは一体何だったんだろうか?

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