メトロノーム

929 :本当にあった怖い名無し:2006/12/17(日) 05:21:52 ID:c66omKwvO
 私は中学の時、吹奏楽部に所属していた。

 あれは中一の冬、土曜日の午後の部活だったと思う。誰もいない図書室を私、M、K先輩のクラリネットパート三人で貸切状態の中、他愛の無いお喋りをしながら練習していた。 机の上には三人分の楽譜が散らばり、メトロノームが一つ、一定の間隔で時を刻み続けている。

 やがてメトロノームが止まった。
「私が巻きます」
 Mがすかさずメトロノームを手に取り、ネジを巻く。その時、
──ガッ
「あっ」
 メトロノームの内部で、何かが壊れた音がした。Mがメトロノームを振ると、微かにカランカランという音がする。

「壊れちゃいましたか?」
 私がそう言うとK先輩は貸して、と言ってMからメトロノームを取った。
 先輩は手慣れた手つきでメトロノームの底の蓋を開ける。中から小さな金属片が転がり出てきた。
「ここが取れちゃったんだね」
「まだ動きますか?」
「ちょっと試してみる」
 先輩は蓋を開けたままのメトロノームを机に置いた。
 私達は固唾を飲んでそれを見守る。壊したのは私達なのだ。
 先輩は針を動かした。

 その時。
──ガガガガガ!
 金属同士のぶつかり合うとてもイヤな音がした。みんなはすぐさま耳を塞ぐ。
「わっ、何コレ」
「あ……メトロノームが……」
 音の原因はメトロノームだった。そしてメトロノームは──火花を散らしながら、後退している!
「わっ」
 あたふたする私達一年。K先輩が火花飛び散るメトロノームを、勇敢に取り押さえた。

 メトロノーム内部にはいくつかの歯車がある。
 後で分かった事だが、あの金属片が取れたので調子がおかしくなり、本来なら触れる事のない金属同士が叩き合ったためにああなったらしい。

 それにしても、火花を散らしながら動くメトロノーム。今でこそ笑えるが、あの時は本当に怖かった。

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