まえさん

355: 名無しさん@おーぷん:20/06/27(土)11:03:35 ID:9Y8 ×

怖くないかもしれないけど個人的にほんのりきてるので語らせてほしい

祖母の家には蔵があって、今思えば蔵って呼んでただけでコンクリのブロック積んだ倉庫みたいなところだったんだけど、
そこには祖父とかが溜め込んでた古い本とか趣味であつめたちょっとした骨董品(価値はほとんどないと思う)とか
祖母と一緒に住んでた叔父家の漫画とか、古いもの新しいもの関係なく捨てるか迷ったらとりあえず突っ込んどくって感じだった。
あと多分家具とか、親戚内でいらなくなって譲ったりする時の一時預かり場所みたいな所になってた。

私はそこに行くのが好きだったんだけど、まあよくある話で、一人でいた時に遊んでくれたのが今思うと親戚の誰でもなくて、という話なんだ。
当時も多分普通の人じゃないと気がついていたけど、それを変だと思えなかった。

祖母の家に行くのは基本的に盆暮れで、父が5人兄弟なのでその家族が集結するとまあまあの人数が集まるんだけど、
お母さん達は皆ご飯の支度とか布団干したりとかしててあんまり構ってくれなくて、
従姉妹、従兄弟はちょっと年上の人か抱っこされてる赤ちゃんかで、年上の人たちはゲームとかしてるし、
疎外感とか拗ねとかで、初めは当てつけで親に見つけてもらおうと思って蔵に行った。
結局全然探してくれてなかったんだけど。

そこで遊んでくれた、まえさんという人がいるんだけど、その人は私の事をずっと別な従姉妹だと勘違いしてて、
おばあちゃんがその子を呼ぶ時のあだ名で私を呼んでた(仮名だけど志乃→しーさん、私は菜々だからかすりもしない、みたいな)。
しーさんじゃないって言った覚えがあるんだけど、まあそう言わず、みたいな、
君が僕のしーさんだ、みたいな事を言われて、大人って話聞いてくれないなと思いながら、
本当はしーさんじゃないのにって思いながら遊んでもらってた。

本当のしーさんは初孫でおばあちゃんにめちゃくちゃ可愛がられてて、
その人に間違われてるっていうのにも引け目を感じるというか、騙してる気がしてそれが嫌だった。

けど、相手してくれる大人がいるのが嬉しかったし、まえさんは私をちやほやしてくれて、
字が読めたりとかするのをなんでもすごいって言ってくれて、たまに着物を見せてくれたりして、楽しかった。
今思えば着物は蔵に入れてなくて、おばあちゃんの部屋の桐箪笥にしまってあったからその時点でおかしいんだけど。

まえさんのことはぼんやりとしか覚えてなくて、お兄さんだなって思ってたけど昔の人っていう認識で、
着てた服とかはまったく覚えてなくて顔もどんなのだったか分からないけど、膝に乗せてくれて、私のお話をよく聞いてくれてた。
ほんとのしーさんをまえさんのところに連れて行こうかと思ったこともあったけど、
そうしたら私じゃなくてほんとのしーさんを可愛がるんだと思うと嫌で、罪悪感を抱きながら私はまえさんを独り占めしていた。
何歳からかは覚えてないけど、小学校の中学年くらいまではよく蔵で遊んでたと思う。
そんなことも最近まで忘れてたんだけど、前に見た夢でそのまえさんが出てきて、私に、「そろそろ名前を教えて」と言った。
それで思い出した、最後にまえさんのところに行った時もそう言われて、しーさんじゃないのがバレた!と思って逃げてきたんだった。
それまで膝に乗って甘えていたのが恥ずかしくて、怒られる、嫌われる!と思って、まえさんの方をもう見れなくて、蔵から走って逃げて、それ以来蔵には近づかなかった。
まえさんに怒られると思ったし、しーさんにもおばあちゃんにも怒られると思って、
もともとしーさんを騙ってたからずっとその事は誰にも言わなかったし、それからも言わなかった。
その後おばあちゃんが施設に入ってその家が叔父さんの家になって、皆歳をとってしまって集まるのも大変だからと一斉に泊まることはなくなって、父はたまに単身で行くけど、私も母もあの家に行くことはほとんどない。
もう10年以上昔のことでキレイさっぱり忘れてたのに、夢に出てきたってことはまえさんはまだ怒ってるんだろうか。

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