練習

927 :本当にあった怖い名無し:2006/11/04(土) 20:23:53 ID:IQFGwKN4O

私は趣味でバレエをやっています。
スタジオも都心にあったので、通いやすく、毎日仕事の帰りに二時間練習させてもらうのが日課でした。

一年ほど前のこと、秋も終わりの寒い夜でした。
その日も練習しようと、駆け込む様にしてスタジオへ走っていました。十二月には発表会があるのです。苦手なピルエットを克服しなければなりません。
その日は残業で随分遅くなっていました。
エレベーターを上がると案の定電気が消えて鍵がしまっています。諦めて帰ろうとした時、私は思い出しました。ここのビルは屋上へ上がれるのです。しかも、防水加工のペンキで屋上の床はフローリングと似てぴかぴかでした。

私は少し拝借することにして、エレベーターをあがりました。
十八階建ての屋上は静かです。
貯水槽がうなっている他はほとんど音がしません。
柔軟を終えてシューズを履くとさながら舞台の様でした。
まず、跳躍からすることにしました。
軸足を決めて出来るだけ高く、柵の端から端までを往復。
それを何度かした時です。
軸足で踏み切って飛び上がった瞬間、自分があり得ない高さにいることに気がつきました。貯水槽が小さな四角に見えます。
着地しなくては、と前にある足を突き出そう勢いをつけました。
すると、その足だけがマネキンのそれの様にポーンと外れて、鈍い音と共に屋上に落ちたのです。
あっ、と思うと引力が切れた様に体が下に落ちるのが分かりました。

どのくらいたったのか、私はほうけた様に屋上にすわっていました。足、足は、と見ると、ちゃんとくっついていて動きます。ねんざもしていません。
気味が悪くなり、私は靴も履き替えずエレベーターに乗りました。あれから、まだレッスンは続けていますが、足が外れることはありません。
でも、あの、足の落ちる「ドッ」という鈍い音がいつまでも忘れられません。

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