嫌味

121 :昔の話1/2:2006/10/01(日) 00:05:02 ID:XSJuIO750

投下します。

当時、彼女は所謂介護職を目指し専門学校に通っていた。
週末のその日は実際に介護福祉センターを訪ね学ぶという実習があったらしい。
リハビリや介護の手伝いはもちろんだが、食堂奥の調理場で料理を手伝うこともしたのだそうだ。
彼女は料理の経験どころか包丁を握ったことさえ皆無に等しく、
その手つきはお世辞にも巧いとは言えないものだった。
不慣れな手つきで、それでも彼女は一生懸命に生イカを捌いていた。
するとその光景を少し離れた所で見ていたクラスメイトの一人が彼女に嫌味を言った。
それも聞えよがしに。
周りで何人かがその言葉に笑ったが、彼女は何も言い返すことなく生イカを捌き続けた。

翌週、先日彼女に嫌味を言った女の子は学校に来なかった。
彼女は普段どおり登校して授業を受けた。
一週間経っても二週間経っても、その女の子は教室には現れなかったが、
担任もそのことについては一切何も触れることはなかった。

ある日の昼休み、何人かで喋っていたクラスメイトの内一人が思い出したように彼女に尋ねた。
「あの子どうしたのかな?」
「さあ?知らない。」
彼女はにっこり笑ってそう返した。
クラスメイトは「そっか、そりゃそうだよね。」と何故か震えた声で言ってすぐ、
もうすでに今のことなど忘れたように他の女の子が喋っていた歌番組の話題に相槌をうっていた。

「防音室の椅子にね、あの女の手足縛りつけて耳元でずっと笑い続けてやったのよ、
 アハハハハハハハハって。ずっとずっとずっと大声で延々延々延々。
 そうしたらそいつノイローゼになったらしくて学校来られなくてさ、やめちゃったんだよ。」

仕返し甲斐ないやつだよね、と笑いながら、彼女は私に言った。
十年も前の話らしい。

「風の噂で聞いたんだけど、そいつこの間自殺したんだって。笑っちゃうでしょ?」

そう同意を求めてきた彼女の顔が、私の目にはひどく楽しそうに映って私はぞっとした。
彼女は無事学校も卒業し資格もとって、都内の介護施設でバリバリ働いているそうだ。
今ではベテラン並の給料までもらえる程になっているという。
私は彼女の話を思い出す度、何か胸にスッキリしないものを感じている。
それでもどうすることも出来ない。
全ては昔話。
そう思い、早くこの話を聞いたことさえ昔話にならないか、と
今日も私は小さな会社でがむしゃらに働いている。

以上です。ボミョウに長くてすみませんでした。

前の話へ

次の話へ