手がかかってる

981 :968:2006/09/27(水) 15:04:17 ID:bxJwDxiW0

機械的に埋め立てるのもなんなので、調子に乗ってもう一話投下。


霊道だかなんだか知らないが、俺のマンションはよく出る。
大学に入ってしばらく経ったある夜のことだ。
ベランダの方から「ドガッ!!」って何かがぶつかる音が聞こえた。
鳥かなんかがぶつかったか、と思いながら、カーテンを開けた。

鳥じゃなかった。手だった。

ベランダの縁、手すりの部分に巻きつくように手がかかってる。
ベランダの壁はコンクリだから、手の甲から手首にかけてしか見えない。
俺の部屋は3階。人がよじ登れる場所じゃない。
だが、不思議なもので、叫んだりはしなかった。

もし、何かしらの事情で生きている人間がぶら下がっていたら・・・。
放っておいたらそいつは確実に落ちる。逃げるのは確かめてからでも遅くない。
そんな考えが浮かんだからだろう。
俺はベランダに出て、ぶら下がっている奴を確かめてみることにした。
恐る恐る、手のかかっている部分から下を覗き込む。

結論から言うと、やっぱり人間じゃなかった。そもそも、ぶら下がっていなかった。
そいつは地面にしっかりと足を付けて、伸びた手だけが俺のベランダを掴んでいた。
ずっと下の方で見上げている顔と目があった。
ニヤニヤと笑っている気がした。

ここで限界が来た。
ありえない。ありえない。ありえない。
パニックになりながら、家を飛び出た。転がるように近くのファミレスに逃げ込む。
友達に電話し、助けを求めた。友達はすぐ来てくれた。
恐怖も薄らいできたので、友達と連れ立ってマンションに戻る。
外からベランダを見てみる。あいつはいない。
ホッとしながら部屋に戻った。
友人がいるのは心強い。俺は部屋のドアを開けた。
ふと違和感を感じて、自分の掴んでいるノブを見る。
暗い部屋の奥から伸びた手が、玄関のドアノブを掴んでいた。

あいつ、入ってきてる。

俺は呆然とその手を見てた。
「閉めれ!!馬鹿!!」
友達の大声で我に返って、大急ぎで扉を閉める。
ノブが狂ったようにガチャガチャ動いた。
俺と友達は身体でドアを押さえつけながら、鍵をかけた。
しばらく叩いたり引っ掻いたりするような音が響いていたが、それも止んだ。
二人で顔を見合わせる。もう部屋に入る気にはならない。
友達が泊めてくれるらしいので、そいつの部屋に移動した。
1泊して、気分が落ち着いた。昼間って事もあるから、強気に出れる。
俺は部屋に戻ることにした。毒を食らわば皿までだ、と友達もついて来てくれた。

扉を開ける。部屋の中には誰もいなかった。
友達は一泊してくれるらしい。ありがたい。正直、一人で夜を過ごすのは無理だ。
結局、何も起きなかった。

ただ最近、気になることがある。
あんなことがあったから、無理矢理結びつけて考えてるだけだとは分かっている。
でも、不安は拭えない。
たとえば、換気扇のダクト。水道管の中。排水溝の奥。
そんな人の入れない隙間。
そこから、引っ掻くような音がする。
その音があの時ドアを引っ掻いていた音に聞こえて仕方ない。

もしかして、俺はあの手に囲まれて生活しているんだろうか。

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