ツッパリ全開のP

244 :1:2006/08/05(土) 06:52:15 ID:IZoeVk4Q0

今から20年ほど前の高校一年の時の話。

俺と幼稚園からずっと同じクラスだったT、高校で同じクラスになったMは
今でもよくつるんでいる。それに三人ともまだ独身だ。

その日は、高校生活も一ヶ月経った頃のゴールデンウィークで、俺らはMの部屋で
ファミコンやったり、漫画読んだりして暇を潰してた。

夜の10時ころ、俺とTはそろそろ帰ろうとしていたが、Mの中学時代の連れPから
電話があった。すぐに家に来てほしいらしい。

Pの家は普通の住宅街にある、普通の一軒家だった。俺とTは初めてPに会ったが、
少し怖かったのはPの格好だった。その当時でいうツッパリだった。話してみると
普通の高校生と変わりはなかったけど。

Pの部屋は二階にあった。俺らのほかに、Pの高校の同級生Oと偶然遊びに来た
Pの連れ(Mの連れでもある)のZがいた。六人でPの六畳ほどの部屋に入った。

Pが俺らを呼んだ理由っていうのが、ツッパリ全開のPからは
想像もできないような内容だった。

Pは中学三年の三学期前からやっと高校受験の勉強を始めた。中学三年の時の
担任に進路相談でそうとうやりこまれて、彼なりに相当焦ったらしい。
そんな頃Pが勉強机に座って受験勉強をしていた時、Pの左側にある窓を
叩くような音がした。Pの部屋はドアを開けて正面に窓、右手に勉強机、
左手に漫画ばっかりの本棚があった。そして部屋の中央には万年床があった。

窓を叩く音にPは風の音だと思った。それよりもその時のPは高校受験という
プレッシャーが大きくて、ほかのことを考える余裕なんてなかったらしい。

無事にPは高校に受かった。その高校は俺らの学区の公立では上から二番目の
高校だった。俺らは自慢じゃないけど一番上の公立校に通っていたが、
Pの通っている高校を聞いて、その格好であの高校に行けているっていうことが
少し怖かった。たった少しの勉強で受かったことには幾ばくかの怒りも感じていた。

Pは受かった喜びで、春休みはほとんど家に帰らず遊び回っていた。
高校に通い出してからも、まだまだ慣れない高校生活というのもあってか、
家に帰ってくるとすぐに寝てしまっていたらしい。

昨日のこと。だんだんと高校生活に慣れてきたのか、翌日からゴールデンウィークで
休みなのが嬉しいのか、妙に興奮して眠れなかった。勉強机に座ってずっと漫画を
読んでいると、いつの間にか日付が変わっていた。窓を叩く音がする。
Pは風の音だと思った。そして、勉強し始めたころにもそう思ったことを思い出した。

Pは何気に窓を見た。どう見ても人影がそこにはあったそうだ。Pは連れが来たのかと
思って開けようとしたが、ふと気付いた。ここは二階だし、今まで誰もこの窓を
ノックして尋ねて来たやつなんていない。

窓の向こう側の人影は、窓をはさんでPを見つめているように思った。それも相当な
悪意があるような感じだったそうだ。ツッパリなくせに小心者のPは、
急いで一階に降りて居間で震えていたが、いつの間にか眠ってしまい翌日の昼を迎えた。

ぐっすり寝たPは、昨晩の自分の部屋の出来事をすっかり忘れていた。
流石ツッパリクオリティ。両親と弟はその日から海外旅行に出掛けていた。
もともと一緒に行く予定ではなかったが、出発前に起こされずに放置された
事実のほうがPには重要だったらしい。頼みたいお土産がいっぱいあったのに、
と後で教えてくれた。

Pにとっては珍しくその日は出掛けることもなく、晩ご飯も店屋物ですませ、
風呂に入って自分の部屋で漫画を読んでいた時に、昨晩のことを思い出した。
物凄く怖くなり、同級生のOが自身で何度も幽霊を見たという話を聞いていたのを
思い出してOを呼び出した。Oだけでは不安だったので霊感が少しあるMも
呼び出したらしい。Zは暇だったそうで偶然遊びに来ていた。
ZがPの家の呼び鈴を押した時、Pは凄くビビッたそうだ。Zがその時のPの真似をして、
大笑いさせてもらった。そんなこともあってか六人はすぐに打ち解けた。

ここで俺らのことを。俺には全く霊感っていうものがない。不思議な体験は幾つかしたし、
幽霊と呼ばれるだろうものを一度だけ見たことはあったが。Tは結構霊感があるし
実際よく見ていたのだが、T本人は信じていなかったというよりも信じたくなかったみたいだ。
Mも少し霊感があり、俺とTと三人で心霊スポットに行くと、TとMには見えて
俺には見えなかったということが度々あった。Tは見た後も錯覚錯覚と口癖のように言っていたが。

高校生六人が揃えば、話すことは一つ。女性のことしかなかった。通っている高校で
かわいい女の子はあの子だっていう話から、実はあの子の中学時代はこういう
感じだったとか、あいつとあいつは付き合っているとか。Mが早速同級生で、
しかも俺とTのよく知る女の子と付き合っているっていう事実が判明した時は
びっくりした。三人一緒にいる時間は長かったのにいつの間に手を出したんだよ。

そんなこんなでとっくに日付は変わっていた。窓を叩く音もしない。
Pが寝ぼけてたっていう結論にしようとしていたその時、窓を叩く音がした。
時間にして一時すぎころだった。六人全員が窓の人影を見た。
それは上半身だけだったけど、はっきりと人の形をしていた。

ドンドンと何度も窓を叩く。でも人影の腕は動いていない。六人は少しの間、
ただ窓を見つめるしかなかった。

窓に近かったTとMは意を決したように立ち上がった。
TとMはアイコンタクトをして、Mがザッと窓を開ける。
Tは暗闇に向かってパンチを繰り出した。
Tの腕に白いモヤみたいなものが一瞬まとわりついて、消えた。

俺とZは呆然とそれを見ていた。

Oは口をパクパクさせていた。
Pはキョトンとしていた。

T、M、Oははっきりとそれが小学校低学年くらいの男の子だったと言った。
顔がニターっと笑っていたのが不気味だったそうだ。TとMは窓に人影が見えた
時にもはっきりと男の子の姿が見えていた。Oはその時はそこまではわからなかったそうだ。
PはMが窓を開けた時、白いモヤの固まりみたいなものが人の形をしているのは見えた。

Tがパンチを繰り出した時(顔面中央にヒットらしい)、MとOは男の子の顔が
真ん中からグネっていくのが見えた。勿論Tも。ニタついた顔がうっすらと怒りの
顔になって徐々に中心部から白くなっていったそうだ。

Pにはずっとモヤの固まりにしか見えていなかった。俺とZはTがパンチを
繰り出した時に、Tの腕に白いモヤがまとわりついたのが一瞬見えただけだった。

一分くらいしてMがそっと窓を閉じた。窓にはもう人影はなかった。
OはP以上にビビって、塩を撒いておかないとと言い出した。Tはいつものように
詳しく状況や見えたものを説明してから、錯覚やって、何もなかったってと自分に
言い聞かすように言っていた。それなら最初から言うなよといういつものツッコミは
俺の唯一の仕事だった。

PはMを連れて一階から味の素を持ってきた。塩がなかったらしい。
それでもいいかってことで味の素を部屋や窓に撒いた。六人はそれから朝まで一緒に過ごした。
次の日も六人でその部屋に泊まったが結局何も出なかった。何も出なかったことによって
Zの好きな女の子への告白大会が企画され、この騒動の翌日にZが見事に振られたことが、
ゴールデンウィーク中の話のタネになった。

それ以来、Pの部屋にもP自身にも何もなかったらしい。Pはその家にまだ住んでいるそうだ。

Pとはそれ以後も何度か遊んだことはあったが、Zはあれ以来一度も見ていない。
どういうやつやったかもあまり思い出せない。

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