メタル先輩

144 :本当にあった怖い名無し:2006/08/02(水) 18:42:53 ID:Mm4PYgy10

俺がまだバンドやってたころの話。
俺はジャズに憧れてベース始めたんだけど、正直難しいし仲間もいないので、
友達のメタル先輩(ヘビメタ系ギタリスト)と、ドラムのケイホーとつるんで
バンドを組むことにした。
メタル先輩は、BlackSabbathに憧れて部屋中黒魔術っぽくアレンジしたり、
ライヴ前には変な儀式をやったり、酒乱でDQNだったりかなりイカれてたんだが、
演奏は凄まじく巧くて俺は尊敬していた。

メタル先輩がいる時点で、メタルバンドとして活動する以外になかったのだが、
メタルは適度に難しいし、勉強になるので俺は異論はなかった。

で、メタルをやる以上先輩が「ギターはツインリードだ!」とうるさいので、
ギターをもう一人募集したんだけど、一人しか来なかったんだよね。
そいつ、歌はへたくそだしギターは簡単なコード弾きしかできないの。
たまに路上で演奏してるということだが、ゆずを3曲覚えているだけで、
およそカスみたいのしかやらないんだよね。

で、そのゆず君はろくに演奏も作曲もできないのに、「ここはこうしたほうがいいよ」
「ドラムのシンバルの音質が云々~」「僕のS.Yairiは最高級品なんだ」
「そのギターのディストーションはうるさい」「今時メタルなんて女の子にモテない」
とかいちいちウザったいことばかり言う性格で、突っ込みどころもみつからなかった。

で、特にメタル先輩はキレまくってて、俺とケイホーさんがなだめる日々だったんだけど。

で、ある日メタル先輩の提案で、山奥の掘っ立て小屋に逝く事になった。
汚い小屋だけど電気は来てるし、周りに民家も何もないから、深夜でも鳴らし放題。
大音量で練習できる!ということでみんな盛り上がりつつ、ピクニック気分で
土日に山に向かった。

機材と食料を担いでたどり着いた小屋は、物凄く汚かった。
地面に木の板を敷き詰めて、その上から箱を被せた様な荒いつくりで、
まあ雨風しのげりゃ上等かな、っていういい加減さ。
みんなで楽器を鳴らしながら、カレーを作ったり花火を鳴らしたり、
DQNなことをやり放題でなかなか楽しい。

夜も更けてきた。
と、おもむろにメタル先輩が袋を取り出して、
小屋の外の周囲に袋の中身をまいてるんだよね。
「何やってるんですか?」
「殺虫剤。小屋の隙間から虫が入るからな。寝ている間に虫に喰われたらヤだろ?」
ふーん、って感じだったんだけど、その袋にはどうみても赤い字で「博多の塩」って書いてある。
塩って虫に効くのか?なんて思ったが、その日は皆で小屋で雑魚寝した。

…深夜になって、メタル先輩に揺り起こされた。
「おい、そろそろ行くぞwww」何やら滅茶苦茶嬉しそうだ。
「?なんなんですか?」
「ゆずの奴を置いて、俺たちは車で寝る。あいつ、朝起きたらびっくりすっぞww
 ここは携帯も通じないから、ちょっとパニくるかもな~」

たちの悪い冗談だな、とか思いつつ、でも俺の中の天邪鬼な気持ちも
ムクムクせりあがってきたので、先輩のいたずらに乗ることにした。

車内で少し寝酒を飲んで、先輩とケイホーさんと俺の三人で寝た。

で、鳥の声で起きたら、もう時計が9時を周っていた。
ゆず君の姿はない。まだ寝ているのかもしれないが、流石に迎えに行かなきゃ。

片道5分の山道を進んで、小屋について、俺は違和感を覚えた。
小屋の周りにぐるっとまかれた塩が、どろどろの液体に変わっている。
夜露で溶けたのかな?なんてのんきに考えて、小屋の扉を開けた俺が馬鹿だった。

小屋中、ムッとしたかび臭いような臭いがしていて、裸電球が消されててうすぐらい。

部屋の真ん中で、入り口に背を向けて体育ずわりするをゆず君がいた。

「おう、ゆず君ごめんな。小屋の中蒸し暑いから、俺たち車で寝てたんだ
 君はぐっすり寝てたもんだから、起こせなかったんだけどさ…」

ゆず君は背を向けたまま、ぶるぶる震えるだけだ。

う、思った以上に悪い事したな…

「悪かったよ、機嫌治してく…」

ゆず君の肩に置いた手を、俺はあわてて引っ込めた。
ぬるっとした手触り。
おかしい。

ここで俺はようやく周囲の異変に目を向けた。
木の板はてらてらと光る帯状の筋が無数に這い回っている。
そして、壁に蠢く無数の白い何か。親指大~パソコンのマウス大の何か。

ゆず君のシャツを粘液まみれにして、部屋中を這い回るそれは、
十や二十では済まない無数の、巨大なナメクジだった。

どうやら、小屋の隙間や壁板の裏に潜んでいた大量のナメクジが、
蒔かれた塩から逃げようとして小屋の中に逃げ込んできたらしいんだよね。
ゆず君は口の中が妙にぐちゃぐちゃしたせいで目が覚め、
起きて周囲の事態を確認した時にはもう、放心状態にあったらしい。

後日、皆でお詫びの意を込めて、ゆず君にK.Yairiのギター(国産の高級品ギター)を割り勘で買って贈った。

ただ、俺にとってはその後のメタル先輩のほうが怖かった。

俺「つっか先輩、流石に洒落にならないですよ。俺だったらトラウマものですよ」
先輩「粗塩撒いたから、何も”出ない”と思ったのにな…まさかナメクジとは」
俺「出るっ…て、もしかしてわかっててやったんすか?!」
先輩「いや、ナメクジは想定外だったわ。たださ」

  「あの小屋、人が死んでるんだよ」

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