鳥避け網

94 :1/2:2006/08/01(火) 03:08:13 ID:/70pgUUG0

二週間ほど前に起こった話。


朝起きて食卓につくと妹が難しい顔をしている。
妙な夢を見たのだという。

曰く、
夢の中で妹は結婚し、双子をもうけ、
その双子が赤い蔦に巻き取られて縊り殺される夢だと言う

不吉な夢だがまあただの夢だろうと気のない返事をし、
簡単な朝食を済ませた。

程なく近所に住む電話がかかって来た。
祖母からであった。

先日夜の内に庭の畑のとうもろこしが全滅したので
すわ烏の仕業だと思い込んだ祖母が私に言いつけてトマトに仕掛けさせた
鳥避け網(鳥目だから烏はないだろう、との私の主張は無視された)に
子狸が二匹絡まっているのだと言う。

おっとり刀で駆けつけると
確かに死にかけの子狸が二匹鳥避け網に絡まっている。
一匹は既に息がなく、もう一匹は相当衰弱してはいたが何とか生きていた。
さて、どうしたものかと思ったが、
取り敢えず、生きている一匹を毛布に包み、亡骸の方は段ボール箱に入れた。

市役所に電話をすると、すぐに行くと言う。
駆けつけた若い職員は息も絶え絶えな子狸と、冷たくなった子狸とを見比べ少し苦笑した。

「あー、狸ですねえ」
「ええ、狸です」
「許可なしに駆除は出来ないんですけど……鳥避け網ですしねえ」
「ええ、まさか狸が釣れるとは思いませんでした」
「とにかく、これはこちらで処理しますんで」
「お願いします」

若い職員はぺこりと頭を下げて、生きた子狸と死んだ子狸とを脇に抱え去っていった。

それから、子狸たちがどうなったかは知らない。
ただ、母狸が近所の民家の敷地をうろついているのが時々目撃されているらしい。
とうもろこしを全滅させられたからか、祖母は「悪さするからだーや」と宣っているが、
私は何とも複雑な気分である。
というのも、私が仕掛けた鳥避け網の色が赤色だったからだ。
虫を嫌い祖母の畑に近づかない妹はそんなことなど当然知る由もない。

あ、因みに狸に食べられずに済んだトマトは美味しく頂きました。

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