雑巾

210 :本当にあった怖い名無し:2006/07/01(土) 14:22:09 ID:eBkWX+070

10年くらい前、当時付き合っていた彼氏にリアルタイムで聞いた話。

仕事が終わって帰ろうとすると、それほど親しくない同僚のAさんに声をかけられたらしい。
「一緒に飲みませんか」
って。

「なんで僕に?」
と疑問には思ったが、別に断ることもないかと、二人で居酒屋に行くことになった。
他愛もない話をして、普通に別れたらしい。

Aさんの話をちゃんと聞いておけばよかったと後悔したのは、は次の日の昼頃、部長に呼ばれてからのこと。
彼氏と別れてから、Aさんは家に戻らず失踪したらしい。
最後に会った人物ということで、いろいろ聞かれたが、特に話すべきことはなかったと。
Aさんにはトラブルもなかったようだし、仕事も順調だった。

それから1ヶ月ほど経ち、彼氏の仕事が忙しくなった。
深夜までの残業は当然ながら、休日も出勤しなければ追いつかなかった。

技術系の会社なので、基本的に一人で仕事をすることが多い。
だから、休日に出勤すると、社内に一人きりとなることも多かったそうだ。

土曜出勤の日、この時も一人で図面をひいていたらしいんだが、どうにも気が散る。
「なんで集中できないんだ?」
と耳をすませてみて、初めて気付いた。

「ポタン」「ピタン」
と水音が絶え間なく聞こえてくるのだ。

一瞬気味悪く思ったが、昼間のことだったので、とりあえず音源を確かめることにした。

なんのことはない。
水の張ったバケツにつっこまれた雑巾が、毛細管現象を起こして、水を床に滴らせているだけだった。
舌打ちをしながら雑巾を絞り、バケツの水を捨てて、仕事に戻る。
その日はそれ以上、妙なことはなかった。

が、次の日、また一人で図面をひいていたら、やはり水音がする。
「またか?」
とバケツを見に行くと、やはり水につかった雑巾がそこにあった。

「昨日帰った後、誰かが出社したのかな?」
と不思議に思ったが、それ以上気にせず、バケツの水を捨て、雑巾を絞る。
その時、手がベタベタすることに気付いた。
バケツに張ってあったのはただの水じゃないらしい。

気持ち悪く思ったが、特に皮膚に異常はなかったので、水道で手を洗って、また仕事に戻った。

これと同じことが、休日に一人で仕事をしていると、必ず起きたらしい。

でも、別に害があるわけでもないし、いつか慣れてしまい、1ヶ月もすれば仕事も一段落して、一人出社することもなくなった。

そして、Aさんが失踪して1年を迎えた頃、Aさんの遺体が見つかった。
大阪湾に浮かんでいたらしい。
見つかった時、死後3時間ほどだったそうだ。
自殺だったらしい。
1年間どこにいたかについては、警察ではわかっているかもしれないが、彼氏は聞かなかったそうだ。

最初、Aさんの失踪や死と、バケツの水を関連づけては考えてなかった。
そもそも、彼氏が水音を聞き続けていた時、Aさんはまだ存命中だったことになるし。

大体、これが霊現象だとしたら、霊がバケツや雑巾というアイテムを必要とする理由がよくわからない。
それに、なんで親しくもない彼氏と最後の夜をすごし、水音を聞かせたのかもよくわからない。

が、バケツの水がベタベタしたことを思い出してぞっとした。
「あの水は水道水じゃない。海水だった」
と。

その後、彼氏には、特に何も変わったことはなかったんだが、ほんのり気味の悪い話。
雨音を聞いてたら思い出したんで、投稿。
長文失礼。通し番号ミスったことも失礼しました。

前の話へ

次の話へ