黒い女

755 :本当にあった怖い名無し:2006/06/20(火) 07:56:41 ID:dcX37NX20
大学に入って一人暮らしを始めて直ぐくらいだから、多分五年くらいは前だと思うサークルの先輩に飲みにつれていってもらった帰りの電車の中での話。
終電も近かったのか、その車両には俺と友人の他にひとりしかいなくて、てんでガラガラ状態だった。
そのひとりと言うのが黒っぽいワンピースだか何だかを着た女性だった。とは言え、顔は覚えていない。何せ終始こっちに背を向けていたからだ。
俺と友人は酔いの所為か、わざわざ無人の車両を挟んで向かい合うようにシートに座っていた。
そんなこんなで、お互いぽつりぽつりとつまらない事を話し合ううちに、電車は停車と発車を繰り返し、それが何度か続いてある駅に止まった時の事だ。
それまで固まったように身じろぎひとつ見せなかったその黒い女が、開いた扉からふらりと電車の外に出て行った。
まあ、ここが最寄の駅なんだろうと思ったくらいで、俺が別に別に気にもせず電車の出発を待ちつつ、友人と話をしていたんだが、ふと友人が表情を強張らせて固まってしまった。
コイツ吐くのか? とか思ってるうちにベルが鳴り扉が閉まり、電車は何事もなかったかのように発車した。
だけど友人はそれから終始、暗い顔をして黙ったままだった。

俺は心配になって「どうしたんや、吐きそうなんか?」と訊ねると友人は短く「違う」と答えてまた押し黙る。まるで要領を得ない。
流石に妙な気分になって「さっき、何かあったんか?」と聞きなおすと友人はぽつりと答えた。
「さっき、電車の中に黒い服着た女おったやん……アレ。ジブンの知り合いか?」
そんな事言われても顔を見ていない俺にそんな判別がつくわけもなく俺は「知らん」と答える。友人は「そうか」と短く返答。
「さっきな、あの女の人な…」と友人。
「ジブンの背後の窓に、こう、ぴったりと張り付くみたいにして手ぇ振っててん。それが、何かすげぇ気持ち悪くてな」
何だそりゃと思ってると、友人は窓ガラスに手を当てて、逆の手をゆっくりと振るような仕草をする。
「何かすげぇ気味悪い笑顔やってんけど…なんやったんやろうな、アレ?」
ぎょっとして思わず振り返った窓ガラスに、よくよく見るとうっすらと手形のような脂の跡が見て取れた。まるでさっきまでそこに誰かが手をついてたような感じだった。
「それからな…」
振り返った俺に友人は更に一言。
「そいつの視線、ずっとジブン見てたで…多分」
その出来事以降、俺は終電間際の電車には絶対乗らないようにしている

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