見舞い客

578 :本当にあった怖い名無し:2006/06/12(月) 00:02:03 ID:gyEcPiGm0

母親は、郊外を遠く離れた山裾にあるでかい病院に転院した。
二階建ての古い建物で、入院病棟は天井が低く廊下の壁は雨漏りで大きなシミが出来ていた。
二年前に事故に遭い臓器破裂で生死の間を彷徨い、今日に至っている。
特に年が変わってからは、容態が急変し今日明日にでもという状況だった。

週末にわたしが病室に行くと、母親の身体からは何本ものチューブが出ていた。
それでも今朝は容態がいいとみえて、話しかけるとうんうんと頷いた。
暫くすると母親は、外にお友達を2人待たせてあるから入って貰ってくれと言った。
廊下には誰もいない、この病室の見舞い客は私だけだ。
そう告げると、母は誰と誰が来ているからと名前まで言って、早く入って貰わないとと私に催促をした。
その2人の友達は、私も小さい頃から面識があって、数年前に既に病死していた。
母にその話をするのだが、分かろうとしない。
「そんな事言ったっておまえ、ドアのとこからこっち見てる。ここへ来てもらって。」と言って、起き上がるようにして入り口を見るのだ。

わたしはこういう経験は二度目だった。慌てたりはしないが、気持ちのいいものではない。
親父に言わせると、死期が近づいた人間は、昔の死んだ古い友達や連れ合いが迎えに来るという。
曾祖母の臨終の時がそうであった。
曾祖母が足元に連れ合いが着て座っていると、親父に言った。
親父は盛んに連れ合いはもう死んでいるんだよと言って納得させようとするのだが、一向に納得しなかった。
で、座の誰かがお経を上げて連れ合いに帰ってもらったらどうかと提案した。
子供の頃だったからうろ覚えだが、曾祖母の布団の上に数珠を置いて、周りにいる大人たちが手を合わせて、一生懸命念仏を唱えた。
それでどうなったかは記憶が無い。

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