庭に誰かいる

699 名前:本当にあった怖い名無し :2006/05/07(日) 05:44:30 ID:eItfrHcJ0

何年も2ch見てるんですけれどど、書き込むのは初めてです。
分類的には心霊ちょっといい話になるのでしょうか。
書き込むスレが違っていたらそう言って下さい。少し長くなるか、と思います。

それに気付いたのは妻の方が先でした。
妻は幼い頃から古流をたしなんでいて、気配とかに非常に敏感な人間です。
反対に私は人一倍臆病な癖にまるでそういったモノに鈍感な人間です。
妻は毎日欠かさず朝の4時45分に帰宅して道場へ朝の稽古をしにいきます。もう三十年以上続けている日課です。
その日も横で妻が目を覚ます気配がして…今考えると後述する要因のせいでもあった様に思えますが…私も目を覚ましました。
枕もとの時計は午前2時半でした。
妻は夜半に目を覚ますことがほとんど無いので、気になった私はどうしたのか?と声をかけました。
薄闇の中で天上を見上げているらしい妻の呼吸だけが、微かに聞こえています。
その様子から私は妻が何かを言いよどんでいる、という事を感じました。これも珍しい事でした。
いつもは感情の起伏は激しくありませんが、ピシリ、という感じで物事をいう人間です。
横になったまま重ねて問おうとした私に彼女は…
「マサノブ(仮名)…庭に誰かいるわ…あなた聞こえる?」
そう小さく低く言われたので、少し身体を固くした私は耳に意識を集中させました。
自慢するわけではありませんが、我が家…妻の持ち家ですが(^^;…は大きく、庭も大きくとられ寝室である離れの周りは芝生で覆われてます。
そのおかげでしょうか、確かに私の耳にも芝生を踏む様な音が聞こえてきたような気がします。
いえ、確かに動く何かがいます。
風でそよぐ木々の音とは違う音が聞こえます。
私は我が家の飼い猫では?…といいかけ足元の重みに気付きました。
ベッドの隅で我が家の猫がうつらうつらしています。
猫ではありませんし、それよりなにより我が家の庭には某警備会社のセンサーが貼られているのです。
音がする一角は、センサーの探知範囲内なのですから誰かが入ってくればすぐに警備会社から電話がかかってくるはずです。
なにより義妹がよく酔っ払って深夜に帰宅してそういう騒ぎをおこすものですから、センサーが作動しているのは確かなはずです。
いったい何が動いているのでしょうか。
耳をそばだてる私にむかって妻が囁きました。

「小さくスキップしてるような…歩幅を考えると、大人じゃない…あ、消えた…」
そう言うと妻はするりとベッドを抜け、足音を殺して部屋を出て縁側の方へ行きました。
5~6分くらい様子を伺っていた彼女でしたが、すぐに離れの電燈を点け庭の照明も入れました。
私もおそるおそるベッドから降りて、妻の後ろに隠れながら外を眺めました…が、誰もいません。
そのまま庭に出てグルリと周りを見渡した彼女は、誰もいない、といって肩をすくめました。
結局其の日は二人の気のせいだろうという事になったのですが…足音はそれから頻繁に聞こえるようになったのです。
周囲が静かになる夜に聞こえる事が多いのですが、どうやら昼間でも聞こえる時があるそうです。
それと最初に気付いた日から徐々に音がはっきりしてくる様な気がします。
音がはっきりしてくるにつれ、妻の、その現象に関するコメントが少なくなってきた気がしていました。
そんなある日、二人の共通の幼馴染の女友達が、自分もその音を聞きたいと言ってきたのです。
私たちはその彼女の実家の産婦人科で、日をおかずに産まれたので文字通り産まれた時からの友人なのです。

その晩、電気を消して三人で車座になってベッドの上で毛布を被っていました。
午前三時少し前になったくらいでしょうか。
女友達…雪(仮名)…がうとうとっとしていたのですが、不意にピクリと肩を上げて顔を上げて言いました。
「聞こえる…でもコレ足音?」私の耳にはその時何の音も届いてませんでした。
妻の耳にはいつも通りの足音が聞こえていたと、後から聞かされました。
「コれって…歌…じゃないかなぁ…歌?…ハミング?みたいな…」

雪(仮名)と妻はそれきり黙りこんでしまいました。
臆病な私ですが、自分には何の気配も感じられませんし、何も聞こえないのでその日は朝まで寝てしまいました。
それから数日たったある日、雪が二人の人を連れてやってきました。
私たちと同年代くらい四十代の女性と、若い二十代くらいの女性でした。
聞くところによると、そういった事を生業としておられる方だそうです。
私は心霊現象の話を見たり聞いたりするのは、臆病な癖に大好きです。
心霊現象は真っ向から口角泡をとばして否定はしませんが、積極的にある!と断言する訳でもありません。
そんな事もあるんだなぁ、という感じの人間です。
身近で拝み屋を見るのは初めての事でした。
四十代くらいの女性は非常に物腰が柔らかで、セールスレディといわれればああそうなんだ、と納得してしまうほどでした。
家の周りを一通り眺めたあと、彼女は私たちに言いました。
「セーラー服の、中学生くらいの女の子がさっきからコッチを面白そうに見ているんですよ。
どうもこちらの方々にゆかりがある人ではないかと思うのですが…」
妻が口を開きました。
どうも判らなかったのは私だけで、妻と雪は最初からめぼしをつけていたようなのです。
「セーラー服はちゃんと着ていますか?」
その妻の台詞で私は思わず「あっ!」と小さく叫んでしまいました。

「…心当たりがおありですか?」
微笑んでいるような泣いているような、どこか曖昧な表情の彼女の顔がまだ脳裏に残っています。
妻が一枚の写真を彼女に差し出しました。
「この中にその子はいますか?」彼女は迷わずそこに写っている一人の少女を指し示しました。
彼女が指し示した先には、セーラーのスカーフを思いっきり崩して結び、にこぉっと笑っている少女がいました。
雪がハミングしはじめました。
グリーンスリーブスでした。
生前の彼女が好きだった歌です。
「何も心配はいらないと思います。ただあまり彼女に執着なさらないようにしてあげて下さい」

私たちにはとても仲の良かった女友達がいました。
何をするのもドコにいくのも一緒。仲良しグループのムードメーカーでした。
誰からも好かれていた彼女はある日、急にこの世を去ってしまいました。
白血病というやつです、私たちが中学生の頃は不治の病だったのです。
風邪を少しこじらせて肺炎になったのかと思い、入院してすぐの事でした。
彼女は笑っている、とその拝み屋の方は言いました。
あなた達を見守っている、とも。
あれからもう二十年以上たっているのに、どうして今頃になって出てきたのだろうと思います。
確かに昔から「あたしが死んだら幽霊になって絶対に出てきてマサノブを驚かせてやる!」とは言っていましたが…
妻と雪は言います。
「亡くなったあの子は…いいかげんだったから…ちょっと遅くなったんでないの?」

たまに庭で足音がする様な気が今でもします。

長文になってしまいました。
最後まで付き合って下さってありがとうございます。少し泣いてしまいました。

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