不気味な沼

90: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 2005/10/21(金) 23:46:36 ID:m4ljULri0

知り合いの話。
彼の田舎には、溜め池が数多くあったのだという。
中に一つ、どうにも不気味な沼があった。
村外れの山中にあるその沼は、勝手に入れないよう周囲を鉄条網で囲って
あり、入口は鎖で施錠されていた。
子供達は「ここで遊んではいけない」ときつく大人たちから言われていた。
元よりそこは気味の悪い場所だったので、地の者は誰も近よらなかった。

しかし、そこでは毎年のように溺死者が出た。
決まって八月になると、水面に浮かんだ遺体がみつかったらしい。
なぜか他の土地の者ばかりだったので、村で長く話題になることはなかった。

高校に上がる頃、彼と友人たちはおかしなことに気がついた。
八月のある期間だけ、沼の入口の鎖が解かれているのだ。
まるで入ってくださいとでも言わんばかりの光景に、違和感を覚えたという。
あれじゃ事情を知らない余所者は入っちゃうよと思ったが、大人に伝えても
気のない生返事が返ってくるだけだった。

彼が高校を卒業する年、村長のまだ幼い孫娘がそこで溺れ死んだ。
後で知ったのだが、村長の家がその沼のある土地を管理していたらしい。
発見者の言によると、入口の鎖は解かれていたのだと。
季節は晩秋。八月ではなかった。

変わり果てた孫を抱えて慟哭する村長を囲んで、大人たちがボソボソと話す
中に、気になる内容があったという。
「毎年毎年、餌やるような真似をするからだ」
「水のくせに増長しやがる」
結局、誰が鎖を解いたのか、どうして孫娘がその沼に出向いたのか、そこの
ところは不明のまま。
その事故からしばらくの間、村長が沼の側で見かけられたそうだ。
巡回していた青年団の者が何度も見たという。
村長はブツブツ呟きながら、長い竹竿で沼の水中を掻き回していたらしい。
ちなみにその当の村長が溺れることはなかった。

現在、沼は埋め立てられて更地にされ、売地の看板が掲げられている。
周りの鉄条網はなぜかそのまま残されているそうだ。
いつまで経っても、買い手がつく様子はないという。

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