「おーい、おーい」

362: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/07/16(日) 07:34:51 ID:SCjawb840
夏の八ヶ岳。
良い思い出は、ない。
生まれて初めての夏山合宿では、
連日30キロを越える荷物を背負わされ、
黙々と歩いた。
景色など、何一つ覚えていない。
一日の行程を終え、湯気だけが取り得の
白米を山盛りにされ、テントの外で、
塩やタバスコを振りかけて食った。

日が暮れても、食事は終わらない。
疲れ果て、飯を食うことさえ苦痛だった。
無論、食欲などない。

呼びかける声が聞こえた。
「おーい、おーい」
何度も繰り返される声に、俺は顔を上げた。
どこから声が来るのか、見回しても分からない。
周りに尋ねたが、誰にも声は聞こえていない。
その間も、俺は声を聞き続けていた。

ついに、顧問の一人が立ち上がった。
俺のそばまで来て、腰を下ろした。
「こんな時はな、無視するんだ」
彼にも声は聞こえているらしい。
他の誰にも届かない声を、自分だけ聞いた経験は、
これまでにもあったという。
「呼んでるんだよ」
だからこそ、無視しろと教えられた。
うまく言えないが、生きてる人間の声と違うだろ。
お前も聞こえる奴だったか。

やめるなよ、と付け加え、顧問は離れた。

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