おじさん

146 :<< コピペ1話目 1/3 >>:04/01/23 15:21

数年前の夏、バイクでG県のK川に釣りへ出かけた。 
土手を走りながらポイントを探して、いいポイントを見つけたのだが、
土手は急で鬱蒼とした薮に阻まれ、辿り着くには、更に進んだところから降りて戻るしかなかった。 

ポイント迄、巨大な岩に阻まれ何度も後戻りしながらも、辿り着いた。 
絶好のポイント!僕は釣りに没頭し、日暮れかけているのも気付かなかった。 
辺りは真っ暗。さて帰るかと思ったが、困った。真っ暗で何も見えない。 
後ろを見ると、おじさんが一人夜釣りをしてる。
「釣れますか?」と尋ねると、「今日はだめやぁ。もう帰るわ」。
しめた!このおじさんに付いて行けば、土手の上に出られる。 
帰り支度を素早く済まし、おじさんに訳を話し、後に続いた。 

しかし、このおじさん、歩くのがもの凄く早い。 
必死についていったが、やがて見失った。 

おろおろしてる僕に、「おーい。こっちだぁ」とおじさんの声。 
助かったぁと声の方へ。
しかし、おじさんの姿はない。 
「こっちだぁ」と再びおじさん。 
どうやらその声は、土手の薮の中から聞こえる。 
最初に降りた場所より、遥かに及ばない所だ。 
近道なのかな。と声のする方へ、僕は急な土手を上っていった。 

しかし、そこは道というにはあまりにお粗末な道。
ふと静かなのに不安を感じ、「おじさん」と問いかけると、
「こっちだこっちだ。はやくしろぉ」とおじさんの声。 
ほっとして進むが、あまりに道が酷いので思わず尋ねた。 
「おじさん、ここから本当に上に出られるの?」
・・・・・・
?返事がない。 

「おじさん?いるの?」 
「ああ、こっちだぁ」 
「この道で出られるんだね?」 
・・・・・・ 
「おじさん、この道でいいんだね?」 
「そうだぁ。はやく来いぃ」 
「もう土手の上に、いるの?」 
・・・・・・ 
「おじさん!?」 
「はやく、こぉぉ~いぃぃ」
間延びした嫌な声…何か変だ…
「土手の上に出れられるのか」と尋ねると口を閉ざす。 
人が通ったにしては草が倒れていない。蜘蛛の巣にもひっかかる。 

嫌なものを感じた僕は、急に恐ろしくなって転がるように土手を降りた。 
すると「ちっ」。上の方で舌打ちが聞こえた。 
僕は背筋の凍る思いで、とにかくがむしゃらに走った。 

何とかここへ来たとき降りた場所に辿り着き、急いで駆け上がり、バイクに乗り来た道を帰った。 
土手の上を走るバイクの軽快な音。
もう大丈夫とほっとして、なにげなく薮の方を見降ろした僕が見たものは、 
薮の合間にある無縁仏と、その脇でこっちを睨んでいるおじさんの姿だった。

前の話へ

次の話へ