旧校舎の旧研究室

152 名前:1/3 :2005/11/09(水) 14:06:27 ID:eRj3kWZK0

これは2年前、京都での事です。
大学院で研究をしている友人のAを、数年ぶりに訪れました。
もう1人の友人Bも一緒に落ち合い、Aの専攻の研究室へと向かいました。
研究室といっても、旧校舎の旧研究室で、Aは待っていました。
旧校舎とそこの研究室は、あまり使われることなく、倉庫のように使われていました。
今の研究室では他の人もいるし、あまり話をする環境ではないと言う理由からそこで会う事にしたのです。
それなら他所でも良かったんですが、陣中見舞いの意味もあるのと
私たちが久しぶりに母校に行きたかった為もあり、そんな事になりました。

Aのところに行く途中、Bが「これは、聞いた話やし、ほんとかどうかも分からんのやけど」
と、いきなり切り出しました。しかし、後が続きません「まあ、なんやろな、気にせん方がええかもな」
昔からこういう言い方をするヤツだったので、苦笑しつつ「気になるやんw話せや」と私。
「うーん、どう言ったらいいんやろ、、ちょっと待って」「まあ、まとまったら聞かせてくれw」
とか言いながら旧校舎の前につきました。1階は昔は食堂でしたが、今は移転して閉鎖。
2階から5階は、やはり各研究室が昔あって、今はどこも倉庫のような使われ方をされているようです。
その4階にAの待っている部屋があります。外から見ると、そこだけ電気がついていました。
上へ行くには、外付けの階段を上るしかありません。
この階段、普通の階段は踊り場1つを回れば2階にいきますが、これは2度回る形になっています。
なので、4階まで何度も踊り場を回らなければ行けない、結構長い階段でした。

階段を見ながらBは「うーん、、ここは上らんほうがええかもな」と言い出します。
「って、ここのぼらな行けへんやんw」
と言いながら、私はさっきの話はここの何やらイワクでも聞いたのかと思いました。
しかしBの様子もそんな深刻でもなく、普通にびびってる程度だったので、階段を上がりながら
「夕暮れのぼんや~りとした中を、その階段を上がっていったんですよねカン・カン・カンと、、」
と稲川潤二風に前を上るAに語って、面白がっていました。
確かに12月の夕暮れの、薄暗い中、雰囲気はある意味最高でした。

踊り場をまわったところで、上から人が降りてきてすれ違います。
若い男の子で、黒い上着に、頭にはバンダナか何かを巻いていました。
くだらない話を聞かれたような、気まずさと気恥ずかしさを感じて
私は無言になりました。Bはさっきからずっと無言です。
しばらく上り、踊り場を周り、また人とすれ違います。。。
黒い服にバンダナ、、さっきの同じ男です!
「うわ~いやだ!これはいやだ!」
そんな感覚を覚えながらも何も言えず、ただBの後ろをついて上りました。
とにかく、早くAの待つ、明かりの着いた部屋に行きたいと思ったのです。
無言で階段を上り、踊り場を回るたび、またあの男が下りて来るんじゃないかとビクビクしていました。
幸い、その後男に会うことも無く上り続けます。。。しかし。。。

この階段を上るともう折り返しはありません、5階まで来てしまったようです。
5階の扉は「立ち入り禁止!」の文字が大きく赤で書いてあり、閉ざされています。
今までの扉は開いていたのに、、なんにせよ戻るしかありません。
なのに、Bは上るのをやめようとしません
顔を覗き込むと目の焦点が合ってないような、明らかに様子が変です。
 ぎ ぃ ぃ ぃ ぃ  音を立てて5階の扉が開き始めました。
「やばい!やばい!」叫んでいたと思います。尚も上ろうとするBの腕をひっぱり、階段を下りました。
Bは抵抗もせず、力の抜けたようではありますが私にひっぱられるままついて来ました。

4階の扉を中に入り、廊下を走って、明かりのついている研究室に飛び込みます。
Aは、机につっぷして寝ていました。
その暢気な様子に、ホッと息をつきます。心臓はまだバクバク言っています。
「A、起きろ!起きろ!」しかし、Aは起きません。変なうめき声をあげています。
「やばい!起きろ!A!A!!」揺さぶったり叩いたりして、やっとAは動きました。
待っている間にウトウトしてしまったそうです。
なぜか私たちを助けに5階に行かなければいけないような気がして
しかしどうしても動けなかったそうです。
Bはボーっとして何も言いませんし、Aも私もパニックでした。
お互いの腕を掴み、Bを引っ張り、階段を転げるように下り、逃げ出しました。
 
AもBも、その後平穏に暮らしています。ですが決してこの話はしません。
私は今朝、この時の夢を見て、むしろ懐かしさを覚えて書いています。
しかし、今思うとあの恐ろしい階段、パニックだったからこそ下れたのですね。
黒服とバンダナの男は、下で待っていた筈なのですから。

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