縁の下

253 名前:名無し君 投稿日:2000/08/11(金) 16:02
松谷みよ子「現代民話考」にでていた話。 
終戦から幾らもたってない頃と思われます。 
当時の家は、台所が土間のままってのいうのも多かったんですね。 
記憶を頼りに書いてるので細部はちがうかも。 

タクシー運転手の奥さんが、まだ五才になったばかりの子を 
残して亡くなった。 
父親は仕事ででかけている時間が長く、そのあいだ隣の家に子どもを 
預けていたのだけれど、深夜になっても帰ってこないのものだから、 
親切で面倒をみていた隣人もさすがにしびれを切らして、子どもを 
ひとりの家に帰してしまうことも多かった。 
子どもは寂しくて、父親が帰ってくるまで、親の名を呼んで 
泣いていたそうだ。 
ある晩、子どもの泣き声がぴたっと止まり、笑い声が聞こえてきた。 
隣人は、「ああ父親が帰ってきたのだな」と納得したのだけど、 
そのしばらくあとに父親の帰宅する音が聞こえてきて、 
「父ちゃんおかえり」と子どもが出迎えている。 
そうした夜が何晩かつづいて、不審になった隣人はある晩、子どもの 
様子をみにいった。 
子どもは、暗い部屋でひとりで喋っては笑っている。 
その様子が、だれかと話しているもののようなので、翌日、父親に 
そのことを話した。 
父親は、子どもに毎晩だれと話しているのか、とたずねた。 
「母ちゃんだよ。おいらが寂しくて泣いてると、母ちゃんがきて、 
だっこしたり、頬ずりしたりしてくれるの」 
「それで母ちゃんはどっから入ってくるんだ?」 
子どもは、土間の縁側を指さした。 
「あの下から、にこにこしながら這ってでてくるよ」 

それから父親は仕事をかえて、早く帰宅するようになったそうだ。

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