吉野郡天川村

188 名前:本当にあった怖い名無し :2005/06/30(木) 12:24:57 ID:BP7EX87w0
10年ほど前友人と奈良県の吉野郡天川村にドライブにいった。 
理由は忘れたが、友人は親が買ってくれた新車を乗り回したくて長い山道を探していた。 
 山道を走り、天川村には着いたが、寄るとこも無いので、早々と村を後にする。 
(一応、湧き水の「コーナー」を見つけたが、何故か錆び鉄の味がして吐き出した) 

 奈良山中を南に抜けるルートを暫く走っていると、 
友人は、あるトンネルの前のエスケープゾーンで車を止めた。 
「何?どないしたん?」 
友人はトンネルの入り口を指差し、 
「こんなん、中で対向車と鉢合わせになったら、どないしよ」 
 そのトンネルの入り口は車一台分、そして真っ暗な中から、モウモウと霧が湧き出ていた。 
それは霧ではなく中で藁でも焼いてるのではないかと、思えるぐらい白く、大量の煙のような霧。 
山中だけど霧も無く、木々は深いけど陽光で明るい。 
普段はどうか知らないがその日は霧の出る雰囲気でもない。 
 とにかくそのトンネルの中だけ壁がドライアイスでできているかのごとく、濃霧だった。 
「・・・霧発生器や!」 
俺のつまらない言葉は友人には聞こえず、続いて出た言葉は驚愕だった、 
「なぁ・・・トンネルの向こうに行って、対向車止めといてくれへん?」 
 確かにトンネルの中のライトもなく、見るからにも短そうな感じではあるが・・・ 
あんまりな言葉である。 
 だけども、もう二十歳とも言うのに、怖いからヤダ、とも言えず無言で車を降りて、トンネル入り口へ。 
当然正面には立たずに横から、入り口付近を見ると、トンネルの形のまま霧が噴出し、 
それがそのまま2mほど続いてフワッと消えていた。 

 俺は車が来る音を気にしながら、霧の中に頭を突っ込みトンネルを覗き込んだ。 
すると眼鏡が曇り、目の前が真っ白になった。霧というより湯気のようだった。 
だけど、そのとき同時に気がついたことがあり、そそくさと車に引き返した、 
「なぁ・・・俺があの中で車と鉢合わせになったら、どうしよ・・・。」 
「!!うわっ!、ほんまや、ごめん!早(はよ)乗って!」 
友人は、何か憑き物が取れたかのような感じで、すまんすまん、と笑って乗せてくれた。 
 シートベルトを締めて、でもどうする?、と話しかけようかと思ったとき。 
トンネルの向こうから大きなクラクションの音、その後、数十秒後、 
勢いよく4WDのデカブツが霧の中から飛び出し、通り過ぎて行った。 
 2人、横を通り過ぎていく4WDを目で追い、正面に目を向けた瞬間、 
「・・・!「警笛鳴らせ」や!」 
 その後、なんや、なんや、と笑いながらクラクションをプップクプーと鳴らし、 
無事トンネルを抜けたが、その間、 
あのまま、この暗い中を歩いていく自分を想像するとゾっとした。 
そしてあの4WDに轢かれていたかもしれんと思った。 

 10年近く経った最近その友人と酒を飲みながら、その話を笑いながらした。 
友人はこの話にいくつかの修正をした。 
1・トンネルは以外に長く、その間、ワイパーを2段目にしたり3段目にしたりしてた。 
2・中はカーブ気味であの4WDはギリギリの幅だった、今でもよくあの勢いで走れるなと思う。 
そして 
3・あのまま行くと俺は絶対にあの中で轢かれていた、例えあの4WDが片方の壁に 
車体をガリガリこすりつけながら走り、その反対側の苔でヌラヌラの壁に体をこすりつけながら、 
横ばいになり進んだとしても、だ。両側タイヤ一個分ずつも無かった、と。 
4・そのせいで数日間、眠れなかった。 
5・そのドライブ後、暫くしてまた田舎の細道で、シャブ中と思わしき親父が道を、とうせんぼ、 
したことがあったが絶対に、俺を使わないでおこうと思った。 
6・実は俺が中で対向車に出くわせると、まず死ぬな、と思ったが、 
 何故か、やっぱり行くな、と言えなかった。だから後で松坂でステーキ丼を奢った。 

 俺は、へぇ、まだ生きてるからええんちゃう?、と言ってそいつと俺のグラスにビールを注いだ。 
が、内心、いい思い出が嫌な思い出になってしまったような残念な気がした。 

・・・また長くなってしまったスマナイ。 

前の話へ

次の話へ