秋祭り

39: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 04/10/30 22:53:39 ID:+novFQZk

先輩の話。
大学生の頃、友人と二人で秋の山に入った。 
友人が紅葉の写真を撮るのに付き合っていたのだとか。

ある夜、どこからか楽しげな笛の音が流れてきた。 
耳を澄ませば、太鼓や鈴の音も混じっていたという。 
秋祭りだと思った。こんな山奥で変だとも感じたけど。 
お祭り好きな二人は何となく嬉しくなり、祭り場を探して歩き出した。

テントを張った地からしばらく行くと、切り立つ崖があった。 
足元の谷間で、小さいながらも活気ある祭りが仕切られていた。 
距離はあったが、型抜きや金魚すくい、綿飴の屋台らしき物が確認できたそうだ。 
こんな山奥で一体どこから電気を引っ張っているのか、古びた豆電球が幾つも 
ぶら下げられていた。 
かすかな笑い声が、風に乗って崖の上まで届いてくる。

しかし、先輩たちは祭り場に降りては行かなかった。 
祭りの会場を賑やかす黒い影は、人型でない物が大半を占めていたのだ。 
「良い絵なんだけど・・・撮ったら拙いだろうな、やっぱり」 
そう言ってから、友人は残念そうにカメラを引っ込めた。 
しばし遠くから祭りの空気を楽しんで、テントに帰ったという。

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