倉庫の小父さん

261 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/05/24 01:03 ID:Yu7Z+HJN
知り合いの話。
彼は幼い頃、家の事情で山奥の実家に越したのだそうだ。 
実家の村には小さな分校があり、そこに通うことになったのだという。 
一学年が十人程度の小さな学校で、彼はなかなかそこに馴染めなかった。

倉庫の小父さんと知り合うまでは寂しかった、と彼は言う。

校舎の外れに小さな倉庫があり、体育用具などが納められていた。 
そこに初老の小父さんが居ついていたのだそうだ。 
なぜか彼以外の人には、その小父さんの姿は見えなかったらしい。 
「ああ、こういうことも有るんだな」と、当時の彼は不思議には思わなかった。 
彼は寂しくなると倉庫に行き、小父さんと他愛もないお喋りをした。 
小父さんは彼の子供っぽい話を馬鹿にすることもなく、煙草を燻らせながら 
頷いて聞いてくれたのだという。 
彼曰く、ずいぶんと救われたということだ。

卒業間近、他の学校と合併することになり、分校は取り壊されることになった。 
小父さんが別れの挨拶をしたのはその頃だった。 
「俺はここから動けないから」理由を聞くと、小父さんはそう言って薄く笑った。 
「ああ、そういうものなんだな」と、彼は受け入れて別れを告げた。

校舎が取り壊された翌日、彼は倉庫があった跡地に行ってみた。 
いくら待ってみても、もうそこには小父さんは現れなかった。 
帰り道、気がついてみると泣いていたそうだ。

「あの小父さんは一体何だったのかな」彼は懐かしそうにこの話をしてくれた。

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