猪捕獲機

471 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/09/05 23:23 ID:qudfF4Sa

私の体験した話。
仕事で遠出する際に、近道をしようと山中を突っ切ることにした。 
普段と違う道を走っていると、小さな鉄工所の傍を通り過ぎた。 
道に面して奇妙な物が置いてある。 
金網ともう一つ、まるでフォークリフトの出来損ないのように見えた。

興味を引かれ、車から降り近寄ってみた。 
まず金網の方を見た。ぶら下げられたタグには『猪捕獲網』とある。 
頑丈な金網が編み込まれ、罠のような構造になっているようだ。

それから問題の、奇妙な作業機械に目をやった。 
薄緑色に塗られたその機械、何と説明したら良いものか。 
下部には二つの小さなキャタピラがあり、その上に剥き出しの座席。 
前面にはショベルカーのようなバケットが付いている。 
そこまでは良い。小型のパワーショベルといえないことも無いだろう。

理解できないのは、機械上部に設けられた二本のアームだ。 
多関節構造で、先端には解体で使われるような大きな爪が付いている。 
どうやら油圧で制御するらしい。何なのだ、これは? 
その機械にもタグが下げられていた。
 『猪捕獲機』

まじまじと機械を見直す。 
爪やバケットに、硬い物と擦れたような傷が、何箇所も付いていた。 
実際に使われたことがあるのだろうか? 
話を聞いてみたかったが、生憎と誰もいない様子だった。 
首を小さく振ってからその場を後にする。 
その日一日中、その機械に乗って猪と格闘する山男のイメージが、頭をよぎって 
離れなかった。

あれから何度か横を通ってみたが、その機械はもう置かれていない。 
網はそのまま残されている。 
なぜかもう話を聞く気も起こらず、あれは白昼夢だったのかとも今は思う。

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