幽霊を殴ったダチの話

59 :コピペ 1/4:04/11/16 14:20:14 ID:3zpcxKYa

殴れる幽霊ってのがみんな自分の状態に気付いてないかどうかは知らんが、幽霊を殴ったダチの話は聞いたことあるぞ。 

そのダチは霊感の強い奴らしいんだが、見た目は単なる優男。 
霊感も無ければ幽霊を見たことなんか一度もない俺にしてみれば、いつも奴の言ってることが本当なのかどうか、判断のしようがない。 
正直、俺はあまりそういう事は信じないクチだったりもするから、奴の言うことはいちいち胡散臭いとか思ってる。 
そんな俺でも、期待半分で肝試しってやつをやってみたことがある。 

とある心霊スポットに行ってみようという話が持ち上がったのは、俺達がまだ学生だった頃。 
まだ就職活動も真面目にやってないような、遊びたい盛りの典型的バカ学生だったと思ってくれ。 
当然、こういう企画にアイツは欠かせないだろう、という事で件のダチに声を掛けたのだが、行かないと言う。 

車も持ってて、バイトは日雇いで、暇を持て余してるくせに講義はサボりがちな不真面目学生。 
そんな奴が頑なに「俺は行かない」と言い張るので妙だなとは思いつつ、仲間五人連れだって車で行ってみた。 

結果から言えば、俺達は幽霊はおろか、何ら怪現象になど遭遇などしなかったし、事故もなく無事に帰って来れた。 
ハプニングといえば、途中で道を間違えて寂れた集落に入り込んでしまったことと、道端から飛び出してきた野ウサギを撥ねそうになったこと。 
それから、車を停めて休憩しているときにイノシシの親子に遭遇したぐらいの微笑ましいモノだった。 
俺達は「ああ楽しかった」ぐらいの気持ちで、その日は解散した。 

異変…と呼べるのかどうかは知らないが、ただの肝試しで済まなかったことが分かったのは、翌日になってからだった。 


翌日、講義に出席した俺の前に、件の友人―肝試しに参加しなかった、自称霊感のある友人が、酒を切らしたアル中親父の如き不機嫌な顔で現れた。 
聞けば、肝試し終了後に俺を駅で降ろした後、残りの四人はその足で友人の家へ押しかけたんだそうだ。 
折角訪ねてきたのだからと家に上げて、まあバカ騒ぎをして家の人に迷惑掛けたらしいんだが、どうも俺に向ける仏頂面の理由はそれでだけじゃないらしい。 
というか、俺は別に家へ押しかけて飲み騒いだりしてないんだから、愚痴は言われても睨め付けられる謂われは無い。 

「なんかヤな事でもあったんか?」 
俺が聞くと、奴は少し隈のある目をぎょろりと俺に向けて 
「お前のせいや」 
と一言、吐き捨てるように言った。 

俺が戸惑っていると、奴は「ああもうしょうがねぇな」といった風で溜息をついて、俺に向き直り、 
「お前らが連れてきたんや」 
と言った。 

昨夜、俺達が心霊スポットを去った後。 
実は、俺達の乗った車に一人、余分についてきた奴がいたらしい。 
そいつは仲間と別れた後も車に残り、そのまま友人の家までついて行ってしまったんだそうだ。 
霊感があるという友人も、最初はそれに気付かなかった。 
気付いたのは、夜中に金縛りに遭った時のことだという。 

いつも大なり小なり金縛りの類には頻繁に遭うという友人だが、この日の金縛りは少し様子が違っていた。 
いきなり幽霊が上にのし掛かってきたかと思うと、何事か聞き取れない恨み言を呟きながら、そのまま首を絞めてきたという。 
幽霊には慣れているという友人も、これには腰を抜かした― 

のかと思いきや。 

その時友人は、 

「猛烈に腹が立った」のだという。 


幽霊相手に―それも、明らかに自分に対し悪意を持って、あまつさえ危害を加えようとする、この世のモノではない存在に対して― 
奴は、「怖い」と思うより先に「腹を立てた」のだという。 
この辺が、凡人の俺なんかには分からない所だが兎に角、奴はその時、目の前の幽霊に対して物凄く腹を立てた。 
怒った。 
そしてぶん殴った。 

「…殴った?(゚д゚)」 
「ああ、殴った」 
「ってお前、幽霊を?」 
「ああ」 
「…金縛りは?」 
「んなもん、気合いでどうとでもなる」 
「…(゚д゚)」 

この辺からがもう、俺には信じられないというか、ある意味怪談ですらないというか。 
奴は不真面目で不精者で、おまけに不健康な優男なんだが、実は趣味で空手を嗜むという、よく解らない部分でナイスガイだったりもする。 
そんな奴が、正拳突きを見舞った相手は幽霊でした、というワケだ。 
信じる方がどうかしている。 

が、目の前の不健康な優男は、似合わないことに真面目な、至極真面目な顔つきで俺に訥々と恨み言を続ける。 

殴った相手―まあ、幽霊さんなんだが―これがまた、殴られて怒った。 
俺は思わず 
「そりゃそうだろな」 
と合いの手を入れてしまったが、よくよく考えてみれば、縁もゆかりもない見ず知らずの青年の寝床に侵入して、 
訳の分からない寝言をほざきながら首を絞める奴の方が相当なDQNである事は間違いない。 
生者であれば問答無用で御用だ。 

しかしてそのDQN幽霊は、ここで見事な逆ギレを見せてくれる。 
その幽霊は、鉄拳を喰らうやいなや、怒りをあらわに、こう言い放ったという。 

「 貴 様 、 こ の ま ま で は 済 ま さ ん ぞ 」 

「…ぅわぁ…(´Д`;)」 
「…ベタな事言ってくれるだろ?」 
「ネタだろ」 
「いや、それがホントにこう言うたんやって…」 


お前は何処の大根役者か、と小一時間問い詰めたくなるくらいベタな反応をしてくれる幽霊。 
しかし、実際の現場は緊迫していた。 
なんせ相手は幽霊で、しかも何やらイっちまってる勢いで自分を絞殺しようとしている。 
とても吉本のノリで突っ込む余裕は無かったらしい。 

…俺にはそうも思えないが… 

ともあれ、このDQN幽霊の言い種にまたまたカチンときた奴は、更にもう一発、殴った。 
くどいようだが、殴った相手は幽霊である。 
しかも今度は念入りに、狙いを定めて渾身の一発を見舞った。 
そうすると。 

「謝ってきたんだよ」 
「は?(゚д゚)」 
「いや、だから二発目殴った後で」 
「幽霊が?」 
「ああ。『ごめんなさい』って(笑)」 
「はああああ?(゚д゚)」 


「このままでは済まさんぞ…!(#゚Д゚)」 
「うるせぇ馬鹿!(#`Д)ノ」 
「…ごめんなさい(´・ω・`)」 

流れとしては、こんな感じらしい。(w 
そして幽霊は静かに消え去っていったのだという。 

その後、奴は再び幽霊に襲われるようなこともなく、身に異変が起こることもない日々を送っているのだが… 
俺はやっぱり今でも、奴の言うことを素直に真に受けることはできないでいるのである。 

(終わり) 

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