富士山の山開き

873 :長文御免:03/12/14 11:20

昔、八ヶ岳にある宿泊施設のレストランでバイトをしていた時のこと。 
職場は牧場の上にあり、赤岳を背に、周囲の山々を見渡せる眺めの良いところだった。 
夏のある夜、二階のレストランのベランダで、シルバー(スプーンやフォークのこと)を磨いていた。 
月もない夜空には満天の星。
仲間達と馬鹿話をしながらふと見上げると、空の一角にぽつんと赤い光が見える。 
星にしては赤すぎる。それに周囲には、他に星がない。 
真っ暗な空の一角に、小さい、赤い光が浮かんでいる。

何かな、と思っているうちにその光はどんどん増えていった。 
無秩序じゃなく、斜め上に向かって伸びていく。 
ゆっくりだけど、確実に増えて行く。

だいぶ長い間見ていたと思う。 
仲間達が騒ぎ出し、厨房の人間も出てきた。 
いったい何の光なのか、まったく分からなかった。 
UFOなんて信じていなかったけど、納得したい気分になった。

赤い点の増殖はどんどんすすみ、空の一角で突然折れた。 
同じ角度で、反対側に昇り始める。 
少しずつ、確実に。

みんなで大騒ぎしていたせいか、外には滅多に顔を出さないコック長も出てきた。 
で、ひとこと呟いた。 
「富士山の山開き」

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