死体を譲って

939 :雷鳥一号:03/11/26 00:26
知り合いの話。
十年以上も昔のことだそうだ。 
消防団員の彼は、行方不明者の捜索で秋口の山に入っていた。 
四人一組で捜していたのだが、彼のチームが遺体を発見した。 
発見したことを伝えるのと、担架の手配をするため、二人が麓の指揮所に戻った。 
彼は残りの一人と一緒に、遺体の傍で番をする方に回った。

日が暮れて暗くなってきた時、目前の林から人に似た何かが姿を現した。 
大きな身体に粗末な衣類をまとい、大きく開いた口元からは歯が覗いていた。 
その肌は、頭の天辺から足の先まで真っ黒だった。 
それは彼らを見つめると、その死体を譲ってくれないかと尋ねた。 
駄目だと答えると、二人を見つめて何かしら考えているようだった。 
思わず二人とも、護身用に持っていた鎌を握りしめたという。

それはしばらく考えて諦めたのか、残念だなあと言って山に戻っていった。 
立っていた場所には、よだれが大量にこぼれて光っていたそうだ。

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