五時おやじ

207 :水仙 ◆r8VZRDMzGc :04/09/23 09:30:29 ID:OAqRt2OZ
五時おやじの話。 

小学校低学年の頃。近所で有名な“五時おやじ”という変人がいた。 
よくある話だが、夕方の五時になっても遊んでいる子供がいると、「もう五時だから帰りなさい」と忠告する、 
それだけなら害のなさそうなおやじだった訳だが。 
この五時おやじが変人たる所以は、彼にまつわる噂にあった。 
曰く、路上で脚をがに股に広げて向こうを向いていたのが、瞬時にしてその姿勢のままこちらを向いている。 
曰く、道で出会ってじーっとこちらを見ているかと思ったら、上の前歯がにゅうっと下へ向けて長く伸びていた。 
・・・・等々。 
お決まりのパターンで、大人たちは「関わりを持ってはいけない」ときつく我々子供たちに言い含めていた。 

それでも子供というのは好奇心旺盛なもので、ある時、五時おやじを追跡しあわよくばその正体を突き止めて 
やろうと企てたのである。 
「あ、五時おやじだー!」 
それと思しき人物を発見し、近くのビルの駐車場(ビルの一階部分になっていて、やたら薄暗かった)に逃げ 
込んだその男を追っていく。 
奥まった駐車ブースの車の陰に隠れた男を、小学生のグループが追いつめていく。 
「五時おやじ、みーつけた!」 
「五時おやじ、出てこい!」 
口々に囃し立てる子供たちに、突如影が動いた! 
無言で逆襲してくる五時おやじに、子供たちは半狂乱になりながら逃げまどう。必死になって駆け込んだ先が、 
いちばん近くにあった自分の家だった。幸か不幸か両親は留守だった。 
玄関と裏口の鍵をしっかりかけて、みんなで息を潜めてじっとしていた。 
ところが、門の鍵はかかっていなかったのである。 
門扉が開き、閉じる音。敷地に忍び込んでくる人の気配。庭へ廻って行く足音。台所の窓から、"彼"と思しき 
人影が見える。 
息を殺して様子を窺っていると、暫く庭や家の周りをうろうろした後、その気配は去っていった。 

その後、五時おやじに関する話はあまり聞かなくなったように思う。 
結局のところ彼が何者だったのか、当時の子供たちには分からないままだ。 


この話は私の同居人の体験談を口述筆記した。 
また面白そうな話があったら書き込ませてもらおうと思う。 

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