山鳴り

531: 雷烏1号 2005/11/17(木) 21:24:00 ID:nlIeX7a00
同僚の話。
大学で山岳部に入部した彼は、初めて単独登山に挑戦した。 
特にトラブルもなく無事山頂に到着。荷物を降ろしコーヒーを沸かしていると、 
どこからともなく山鳴りが響き始めた。 
だが、不思議と恐怖感はなく、その重も重もしい金属音の迫力に聞き入っていると 
向かいの岩肌にまるでマウント・ラッシュモアのように5人の男の顔が浮かんできた。 
そして、崖下にある湖からは煙のような霧がたちこめ、その壮厳な様式美に圧倒されてしまった。

卒業してから山に疎遠になってしまった彼だが、20年後に再びその地を訪れることになった。 
だが、5人の顔は男と女の2人になっており、湖は枯れ、花と草が生い茂っていた。 
山鳴りも聞こえず、代わりに山鳥の美しい鳴声が聞こえてくる。 
同行した妻は「すごく癒されるわ」と感激したそうだが、彼には寂寥感しか残らなかった。

「時は全てを変えてしまうんだよ」 
寂しそうに語った彼はコップのウィスキーを一気に飲み干した。

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