キモトリ

334 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2011/04/25(月) 21:20:52.21 ID:4zKKwHzs0 [1/3回(PC)]

老人の話。
町外れの山に、かつて小さな火葬場があった。 
彼はそこで働いていたらしい。 
祭りの打ち上げで一緒になった際、そこでの話を色々聞かせてくれた。

「怖そうな現場ですね。とても私には務まりそうもないです」 
そう言う私に、爺さんが答えて曰く。 
「いや仕事といっても、実際は火の番くらいなもんだし難しくはない。 
 偉いさんから酒の差し入れもあったし、慣れたら別に怖くもないさ」 
その台詞の後、思い出したようにポツリと付け加える。 
「ただ時々キモトリが出おってな、あれは怖いというか不気味だった」

人を焼いていると偶に、周りの木々の中に変な小動物が出ることがあった。 
それは膝を抱えた猿であったり、後ろ足で立ち上がった兎であったり、 
枝上に丸くなった猫であったりした。 
それらのどこが変かというと、皆一様に顔が無いのだという。 
本来顔があるべき部位が、真っ黒に塗り潰されて見えるのだと。

番所から外へ出て確かめると何もいない。 
しかし、小屋に帰るとやはり見える。 
暗い森影の中から、こちらをじっと見ている。

「先達は、それをキモトリって呼んどった。 
 何かが獣ン振りして人の魂を狙っとるんだろう、そう聞かされたよ。 
 まぁ気持ち悪いだけで実害は無かったから、無視しとったけどな」

今はもうその火葬場も無くなっている。 
「キモトリがどうなったかって? 
 さてなァ、儂らと同じく山を下りたんかもしれないなァ」 
爺さんはそう笑って、注がれた酒を飲み干した。

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