夏祭りの後に。

626 :夏祭りの後に。1:04/08/25 00:39 ID:JNyBzTiU
小学生時代のとある夏休みの一日。 

自治体で主催していた夏祭りに、友達に誘われて遊びに行った。 
夏祭りと言えば、24時間テレビや大晦日、お正月など、子供が夜遅くまで起きていても怒られないイベントのひとつだった。 
心ゆくまでお祭りを楽しみ、その後はお祭りの後片付けなどを手伝って楽しい夏祭りは終了した。 
さて帰ろうかという時、友人の母親が夜も遅いから車へ乗っていきなさいと言う。 
(行きは、祭り会場が近くだったので徒歩だった。) 
駐車していたところが離れていたので、友人の母親は先にそちらへ行って車をこちらへよこしてくれることになった。 
「ちょっと待っててね」 
友人の母親はそう言って、私たちをその場へ残し駐車場へと向かっていった。 
待っている間その場にずっといるのもつまらなかったので、駐車場のほうへと向かって、 
私たちは祭りの楽しかったことや宿題のことなどを喋りながら、だらだらと歩き始めた。 
会話の途中友人が、ふと立ち止まった。 

「あれ?電話のところに誰かいる…?」 

友人の示す先へと目をやったが、最初はわからなかった。数度、やりとりをしてようやく気づく。 
私は息を飲んだ。確かに誰かがいる。 
祭り会場の側には自治会館があり、外には一台、公衆電話が取り付けてあった。 
コンビニの前にあるような、鉄の柱の上に乗っかった緑色の公衆電話だ。 
その公衆電話の下に、蹲るようにして赤と黒の何かが蹲っている。 
ぴくりとも動かず、ただ膝を抱え蹲っている。顔は下を向いているせいでわからなかった。 
人間…?目を凝らすと、長い黒髪に赤いワンピースのようなものを着た女性のようだった。 
目が醒めるような、赤、赤、赤。そこだけが切り取ったように赤く暗闇に浮き上がっている。 
じっと見つめるうちに、なにか、全身が粟立つような感覚が襲った。 
ゆらり、赤い女性が動いたような気がしたその時。 
私たちは一目散に駆け出した。「逃 げ ろ」その感情だけが身体中を駆け巡る。 
必死で走った私たちはやっと、友人の母親の運転する車を見つけた。 

今でもあの「赤い色の何か」が人間だったのか、そうでないものだったのかわからない。 
祭りはとうに終了し、祭り会場にも自治会館の周りにもその時は私と友人の二人しか残っていなかった。 
周りは住宅地で、夜も遅いせいか灯りはちらほらとしか見られず、ひっそりと音もなく…。 
今でもあの赤い色は、恐怖と共にはっきりと脳裏に焼き付いている。 

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