図太い彼女

146 :名無しさん@おーぷん :2014/09/18(木)04:36:12 ID:euFz45lFI ×
当時の彼女が住んでいたワンルーム。

安さだけで決めたというだけあって、壁は薄いし夏は暑くて冬は寒い。
おまけに築年数もかなり経っていて、トイレはお風呂場と一緒のタイプ。

玄関入ってすぐに狭くて細いキッチンスペースがあり、その先に8畳のリビングがあった。
角部屋だった為、外階段を昇り降りする音も聞こえてくる。

彼女はだいぶ図太い神経をしていたのか、全く気にならないと言っていた。
偽物ではない、本当にサバサバとした男友達のような性格に惚れて付き合っていたんだ。

とまあ、前提はこれくらいで。

俺も一人暮らしをしていたんだが、大学もバイト先も俺の部屋の方が近かったせいか、
ほとんど俺の部屋で半同棲のような形で生活していた。
何度か彼女の部屋に遊びに行ったことはあるが、初めて泊まったのは付き合って二ヶ月くらい経ってからのことだった。

部屋に入るなり、彼女はうーん…とうなりながら、狭い部屋をパタパタと片付け始めた。
俺の部屋と比べたらかなり片付いている(というよりものが少なすぎる)のだが、
彼女は気になるようで、せっせと俺がいられるスペースを作ってくれた。

話に聞いていた以上に壁が薄く、静かにしていれば隣の部屋のテレビの音も聞こえてきた。
当然、彼女もBGMがわりに見もしないテレビをつけて生活音を消していた。

お酒も入っていたので、狭いベッドに抱き合う形で布団に入り、ムラムラする気持ちは抑えてその日は早めに眠ることにした。

慣れない布団で眠ったからか、夜中に目が覚めた。
彼女を起こさないようにベッドから降りて、小さなテーブルの上の飲み物に口をつけた。

ふと、誰かが呟くような声が耳に入ってきた。
彼女の寝言かと思ったが、どうやら違うらしい。
息を殺して耳を澄ませていると、その呟きが何を言っているのかが耳に届いた。

「出て行け…出て行け…」

小さく小さく囁くように、その言葉だけを繰り返していた。
鳥肌が立った。
彼女を起こして、コンビニに行こうと誘った。とにかく一度、この部屋から出たかった。
彼女はめんどくさいと言いながらも付き合ってくれた。

「なあ、隣の部屋の人、ちょっと変だって」
「ん?なんで?」
「ずっと小声で、出て行け、出て行けって囁いてるんだもん」
「あー。あの声か。貴方にも聞こえたんだ」
「どういうこと?」
「あれ、隣の部屋の人じゃないよ」
「え?」

俺自身、そのときまで幽霊やら心霊現象やら全く信じていなかったんだ。
でも、よくわからないんだけど、直感でこれは「そういうもの」だったのかと、ストンと腑に落ちて納得してしまった。

「部屋のものをちょっと動かしたり、たまにピシピシ音を鳴らしたり、
視界にチラチラ入るくらいだから気にないのが一番だよ。何か言っててもテレビつければ聞こえないしね」

彼女の神経の太さに驚いた。
そして、自分の肝っ玉の小ささにも。

彼女がいる心強さを頼りに部屋に戻ってみると、声は何にも聞こえなかった。

「ほらね、気にしないのが一番だよ」

彼女はそう言ってベッドに入った。
だが、俺はテーブルの上に置いたはずのペットボトルが倒れているのを見て、もう二度とこの部屋には泊まらないと心に決めた。

怖さでまるで寝られなかったし、やっぱり声は聞こえてきた。
この日以来、変なものが見えたり聞こえたりするようになってしまったことが、一番洒落にならないことだと思っている。

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