イミコ

2 :名無しさん:2011/12/22(木) 00:15:04 ID:Pew8pyt20
俺が小学生の時に聞いた話。実話かつかなり不謹慎な話だから、その旨了解して読んでほしい。 

俺の爺さんは早くに亡くなったんだけど、その法事で母方の実家に戻ってたときのこと。 
夜も遅いから婆ちゃん家に泊まることになった。夜、洗面所で歯磨きをしていると、ふと鏡の上に変な形の小さなしめ縄みたいなのが置いてある。 
俺と兄貴が母にアレ何?って聞くとなんだか言いたくなさそうな感じではぐらかされた。その場は俺も兄貴も引き下がったけどどうしても知りたい。 
そこで寝る前に婆ちゃんの部屋に言って聞いてみた。すると「あれはイミコが出んようにする護符だよ」と返ってきた。 

俺と兄貴はその夜なんだか得体のしれない気味の悪さになかなか寝付けなかった。 
イミコという言葉の意味がよく分からなかったがなんとなくその語感からなんだか“よくない″ものを想像した。ちょうどその時チャイルドプレイって 
いう映画が流行ってたんだけど、その主人公のチャッキーっていう殺人人形がこの家のどこかにいるのかもと思うと本当に怖かった。 
実家は古い木造平屋建てで、最近の子は想像つかないかもしれないけど、トイレが離れにある。 

しかも縁側の長い廊下を通っていかないといけない。縁側は庭だけどかなり原野に近い形で、すごく鬱蒼としてる感じだった。 
さらに途中に、もう使っていない爺さんの書斎がある。ここだけはとにかく本当に駄目だった。なんと言えばいいのか異様な雰囲気だった。 
紫檀のテーブルやら、凝った意匠の安楽椅子やらそのうえ所々変色した薄黄色のカーペット。仕切りのガラス戸も何箇所か曇っていてその隙間から中の様子 
が見える。小さかった俺にはその部屋はかなりのトラウマで、その晩のイミコの話もあの家の恐怖感と相まって長い間俺のなかで記憶として定着していった 
んだと思う。 

それから何年かして俺は高校生になっていたんだけど、婆ちゃんが正月に家(俺の実家)に来ることがあった。 
俺もその時はイミコの事は忘れていたけど、正月のしめ縄の話でふとその話になった。 

婆ちゃんの話は正直言ってなんか胸糞が悪い話だった。 

イミコっていうのは「忌子」と書き、障害者の事を意味していた。 
当時変な形だと思ったしめ縄は∞の形を途中で切ったような形をしていた。 
その意味は、生まれてきた子が呪われないようにするという事だという。 

説明するとこんな風になる。 
母の実家の地方では、戦前は障害者の出生率が高く産まれてきた障害児は労働力にならないので「間引き」と言って殺されてしまった。 
その時に障害者に対する妙な信仰の様なものが生まれた。それがしめ縄の表す∞である。つまり障害者は死んでもまた障害者に生まれ変わり、 
人間に生まれながら人間として生きることが永久にできない。産まれ、殺され、また産まれるを無限に繰り返す。その連鎖を断ち切るという 
意味を表したのがあのしめ縄だという。 

この話を聞いたとき、母は始終ずっと嫌そうな顔をしていた。それからさらに10何年経つ今になってふと気づいた事がある。 
あの婆ちゃんは母が小さい時にも同じような話をしたと見て間違いないだろう。実際あのしめ縄は母と伯父の為に作られたしめ縄だ。それならば 
俺が生まれる前はどうなのだろう。俺にはあの婆ちゃんが同じお守りを母に薦めたように思えてならない。だとしたら、今も俺の実家のどこかにそれは 
あって、あの鬱々とした田舎の家と同じ妙な雰囲気が流れているのかもしれない。そう思うと、もうすぐ正月で実家に帰るのが億劫になっている自分がいる。 

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