嘘つき

986 本当にあった怖い名無し sage New! 2013/02/04(月) 00:23:25.63 ID:1PJkoUvY0

小学校のときのことなんだけど、たいして怖い話でもないのでここに投下。 
3年生のときの同級生でよく嘘をつくやつがいたんだよ。 
そいつとは家が近かったんで低学年の頃は何度かいっしょに外で遊んだ記憶もある。 
小学生は意地をはったり見栄をはったりして他愛もない嘘をつくことがあるけど、 
そいつのはいかにも突飛で、しかも確かめればすぐばれるようなのばかりだった。 

例えば虫取りが流行ってたときには、15センチもあって角が三つに分かれたカブト虫を山で捕まえたとか言う。 
今にして思えば、図書館で図鑑に載ってる外国のカブトを見たとかなんだろうけど、 
空の水槽に入れて飼ってるというんで、このときは信じた子供もいた。 
放課後、見せてもらおうと後をついてそいつの家に行くと、 
先に家に入ったそいつが、いかにもがっかりした顔で出てきて目尻をぴくぴくさせ、 
そこ以外は無表情に「逃げられてたよ」と言う。まあそんな感じ。 

他にも、そいつは片親でボロい木造家屋に母親と住んでるんだけど、 
実は親父は外国に長期出張してる有名な会社の社長だとかなんとか。 
しかしそうでないことは、いくら小学校3年生でもすぐわかった。 
勉強もスポーツもできず、小遣いを持ってることも少なく話しても何も面白くない。 

それに母親が夜の仕事で忙しいせいか、そいつのことをろくにかまってなくて、 
毎日忘れ物はするし同じシャツを着てきて汗臭いしで、まずクラスの女子がそいつを嫌がり、 
男子もだんだんと話をするやつがいなくなって孤立状態になった。 
ただし、いじめられてるというわけでもなかったけどな。 
子供なりにそいつが自分のヘマや嘘で追いつめられたときに見せる無表情さに、 
一種の不気味さを感じていたんだと思う。 

4年生になってクラス替えがあり、俺はそいつとまたいっしょのクラスになった。 
俺の行ってた小学校は大規模校だったんで、それまで同級だった子よりも知らない子のほうが多く、 
春休み明け始業式の日は子どもなりに緊張して迎えた。 
朝ちょっと早めに登校すると、そいつのまわりに何人か人が集まり「うえー」「本当かよー」とか言ってる。 
そいつが何かの紙切れを、寄ってくるやつに見せてるんだな。 

それで、俺も近づいてみると、「○○(俺のこと)この写真見て、今まで一人っ子だと思ってただろうけど 
じつは小さい頃は双子だったんだ」と言ってくる。 
そいつが持ってる紙には、シャム双生児というのかな、 
体がくっついてて手が4本、足はどうなってるのかわからないような幼児が写っている。 
頭は一つで奇妙にねじ曲がっていて片目がつぶれてて、悲しいような恨めしいような目でこっちを見ている。 

「これオレなんだよ。弟といっしょにくっついて産まれたけど、小さい頃手術して切り離したんだ」 
しかしそうは言うものの、手に持ってるのは写真ではなく何かから切り抜いたと思われる紙切れだし、 
写ってる顔はどう見ても日本人じゃない。ああいつもの嘘だな、と思って俺はその場を離れた。 
これ以降、そいつもクラス替えで精神状態が高ぶっていたのか毎日のように様々な嘘をつき、 
そして3年生のときのようにあっという間に孤立した。 

ただし今回は学年で鼻つまみのいじめっ子がクラスにいたこともあり、たんに孤立では済まないようだった。 
俺はそのイジメには加わっていなかったし、そいつの味方をしたこともない。 
クラスではただひたすら離れていた。 
それに4年生からはスポ少に入ることができ、俺は野球部になって放課後は遅く帰ることが多くなった。 
そいつは運動は苦手で、用具などをそろえる金もなかったのかもしれないが、 
下校時間になると一人で帰っていた。 

その日は練習がなかったんで俺が普通の下校時間に一人で歩いてて、 
角を曲がるとそいつが前にいた。どうやら帰りの掃除の時間にでもイジメを受けたらしく、 
いかにもとぼとぼとした感じで歩いてる。 
ちょっとかわいそうになったので追いついて、「いっしょに帰ろう」と言うといつもの無表情でこっちを見た。 

けど何の話題もない。そのままただ歩いていると、 
唐突に「オレ転校するんだよ、明日からこの学校には来ない」と言う。 
でも、転校するなら必ず先生がそのことを言うはずだし、今までは転校する子が出ると簡単なお別れ会を開いてた。 
そういうことがなかったので、ははあまた嘘だなと思った。 
リアクションを返せないまま押し黙って歩いてそいつの家の前まで来ると、 
そいつがやはり無表情のまま「今までありがとうね」と言って玄関に入っていこうとした。 

そいつが後ろを向いたとき、ランドセルの蓋がパンと強くはね上がり、 
中から幼稚園児くらいの大きさで細長くねじけた頭が飛び出した。 
頭は俺のほうを見ると、苦しそうに顔をゆがめ、 
いくつにも切れた唇からしぼりだすような声で「あ・り・が・と」と言った。 
始業式の日にそいつが持ってきた切り抜きに写っていたシャム双生児の顔だと思った。 

次の日そいつは学校には来ず、数日して先生が 
「□□君は急な事情で転校しました、みんなにお別れが言えずにとても残念がっていました」と説明した。 
親たちの噂話では、どうやら夜逃げのようだった。 
それから今まで一度も会っていないし消息もわからない。 

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