不知火淵

231 :雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM :2014/04/04(金) 19:31:06.15 ID:c0XRQdG+0.net
知り合いの話。 

とある山奥に、不知火淵と呼ばれる水場がある。 
彼の親戚で杣人をしていた者がいて、ある夜この辺に泊まったのだという。 
真夜中、立て続けに水音が聞こえてきて目が覚めた。 
淵を見やると、沢山の白い手が水の中から伸び上がってきている。 

手の主は彼を見つけたという訳ではないらしく、手近の木などを触りまくっている。 
音を立てないよう注意し、そこから立ち去ったそうだ。 

「あそこにゃ得体の知れないのが仰山居るぞ」 
杣人が里に帰り着いてボヤいていると、一番の年寄りが教えてくれた。 

「お前が見たのは不知火といってな、淵の名前の由来になった化け物だ。 
 大勢いるように見えはするが、実はあれで一体だけなんだと。 
 淵の底に白くて丸い、でっかい卵みたいな身体が沈んでいて、そこから何本も 
 白い手が伸び出しているってよ。 
 どうやらアレは母親らしくてな。 
 目がないモンだから手探りで、はぐれた子供を探してるって話だ」 

「……という話を聞かされたんだけど、そんな化け物、聞いたこと無いよなぁ。 
 各地の伝承を探せば、まだ知られていない妖怪って結構居るのかもしれん」 
彼は水木しげるの本を片手に、真面目な顔でそう言っていた。

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