水トカゲ

191 :雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM :2014/04/01(火) 18:16:30.12 ID:XBhHH4or0.net
友人と私の話。 

団体の事業でタイの山奥に行った時のこと。 
事前調査の一環で、現地の村にある受水槽を調べることになった。 
村人が自分達で造った背の高いコンクリート製の水槽で、雨水を溜めているものだ。 
蓋の部分が二重になっていて、内側の蓋がひび割れているという話だった。 

友人が重い蓋を持ち上げようと手を差し込むと、何やらザラッとした感触がある。 
蓋を除けてみると、一メートル近い大きなトカゲが、内蓋の上に蹲っていたという。 
感情のない目で彼を見上げてくる。 
慌てて蓋を戻し、恐る恐るもう一度ゆっくりと上げて確認してみた。 
そこには何も生き物の姿はなかったそうだ。 
あれだけの大きい生き物が身を隠せる場所など何処にもなく、何度も首を傾げた。 

「アレは水のトカゲ。あそこの主だよ。 
 いきなり蓋を開けずに、まず一言声を掛けておけば、決して姿を見せないのに」 
村人達にそんなことを言われ、笑われたそうだ。 

話を聞かされ苦笑する私に、友人は仏頂面で伝えてきた。 
「明日は君が水槽を確認してくれよ。僕は爬虫類がダメなんだ」 

次の日、写真を撮るために私が水槽に登ることになった。 
前日の騒動を思い出し、何も声を掛けずに外蓋を持ち上げてみる。 

いた。 

緑色というか青色というか、とにかく大きいトカゲがそこにいた。 
泰然自若とした風で、こちらには何の興味も抱いていない様子。 

ふと悪戯心を出し、蓋を静かに戻してから声を掛けた。 
「今から写真を撮りますので、すいませんが退いて下さい」 
そして間を置かずに、蓋を取り去ってみる。 

大トカゲは何処にもいなかった。 

村人の言を本気にしていなかった私は大層驚き、続けて何度も蓋を上げ下げしてみた。 
しかしその後、あのトカゲは私の前に二度と姿を現さなかった。 
化かされるっていうのはこんな感じなのかなと、今でも不思議に思っている。

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